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第十章15 宵闇と月。下座と上座

 目を回していた二人が、元に戻るのを待ってから、私達は地面へと降りた。


 もう空は暗いので、かばんからランタンを取り出し、中のろうそくに火を灯した。

 ちろちろと燃える明かりが、暗い森の中を申し訳程度に照らし出す。


「足下に気をつけて」


 そう忠告をして、私達はシェリーがいるであろう下座の街へ向け移動を始めた。

 

 空は暗く、おまけに草木が生いしげる森の中であるため、視界はすこぶる悪い。

 けれど、西(私達が来た方向)には巨大な崖がそそり立っているから、それを目印に歩みを進めた。


 ――やがて、鬱蒼うっそうとした森を抜ける。


 現れたのは光景を目の当たりにして、私達は息を飲んだ。


 空は暗いというのに、どの家も暗く、数件ろうそくの明かりが漏れているくらいだ。

 軒下に提灯ちょうちんを吊しているのは、飲食店くらいのもので、道を照らす光など無いに等しい。


 先程、私達を吹き飛ばした風のおかげか、霧は幾分か晴れているけれど――それでも、上座に比べて明らかに空気がよどんでいるのを感じた。

 おまけに――


「歩いている人が少ないな」

「私も、同じ事を思っていました」


 レイシアの呟きに同調する。

 辺りを見まわしても、外を出歩いている人はまばらにいるだけ。


 その誰もが、夜をうとましく思っているかのように、物憂げな表情で私達の横を通り過ぎてゆく。


 まるで、街全体が死んでいるかのようだ。

 お世辞でもさかえているとは言えない。


 唯一、とある民家の側を通り過ぎたときに、お腹が空いたのか泣き叫ぶ子どもの声と、必死になだめる母親らしき女性の声が聞こえたが――楽しそうな笑い声は、全く聞こえなかった。


「暗い街だ。生気が感じられん」

「ここまで露骨ろこつに格差があると、シェリーが激怒げきどしたのもわかる気がします」

「それで、その肝心のシェリーは見つかるかだが……」


 レイシアは、気乗りしなさそうな表情で、辺りに目を配る。

 それから、諦めたようにため息をついた。


「もっと探してみないと、わからんな」

「手分けして探しましょう。待ち合わせは、どこがいいかな」


 私は、何か目立つものはないかと辺りを見まわす。

 すると、上手い具合に、少し道を進んだ先に二階建てで綺麗な明かりが灯っている建物があった。


 屋根の上と、入り口の前に「湯や」と書かれたのぼりがたてられていることから察するに、どうやら温泉のようだ。


 ボロボロの平屋建てが多い中で、唯一ちゃんとした建物と言える。

 上座の建物に比べても、見劣りしないくらい大きく、あれなら待ち合わせ場所に最適だろう。


「あの湯やの前で、一時間後に集合でどうです?」

「なるほど。確かにあの建物なら、遠くからでも見えそうだ」


 レイシアは二つ返事で了承し、他の面々も、賛成と言わんばかりに頷いた。

 これで決まりだ。


「もし一時間探しても見つからなかったら、どうするの?」


 そう問うてきたフィリアに、「そのときは、そのとき」と返す。

 ニタくにと言っても、広さはそこまでない。五人で探せば、十分全て回れるくらいの広さだ。


 見つからないことの方が、確立が低い。


 ――そうして私達は、ぼちぼちシェリーの捜索に当たるのだった。


 空はいしれるほどに暗く、月は覚ますほどに明るい。

 まるで、このくにそのものを、象徴しているかのようであった。



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