第十章14 落下をとめる方法
「うわぁあああああああああああ!」
「きゃぁあああああああああああ!」
黄色い奇声が、空中に取り残される。
私達の身体は、凄い速度で自由落下を続けていた。
夜空にくっきりと映る月だけが視界から消えず、地面だけが異常な速さで近づいてくる。
「それで、この後はどうするんだ? カース」
落下に身を任せながら、レイシアが大声で聞いてきた。
「どうするって、魔術を使って減速して、安全に着地を……」
「何の魔術を使う気だ?」
「まだ考えてません!!」
「はぁ!?」
レイシアの素っ頓狂な声を置き去りに、眼下の森へ向けて真っ直ぐに落ちていく。
「冗談じゃないぞ! 地面はもう目と鼻の先だ!」
「大丈夫でしょ? 下は森だしクッションになるって」
「貴様の頭はお花畑かッ!?」
悠長なことを宣うフィリアに、すかさずツッコミを入れるレイシア。
そうしている間にも、地面は急速に近づいてくる。
「ちぃっ! こちらが何とかするしかないか!!」
レイシアは革袋から宝石を取り出し、私に合図した。
「とりあえず減速は余が引き受けた! あとは貴様が臨機応変に対応しろ! 《珠玉法―翠玉・暴風―五重奏》ッ!」
呪文を叫びつつ、レイシアは真下へ向けて五個の光る石を投げた。
次の瞬間、落下した宝石が一斉に割れ、天めがけて立ち上る突風。
下から吹き上げる風に当てられ、全員の落下速度が大きく減少する。
このまま行けば、生い茂る林冠に落下するから、全員助かる。
私の出番はないな。
そう思った矢先、軽やかにフラグ回収した。
突如として崖上から、猛烈な風が吹き下ろしてきたのだ。
「なっ!」
「嘘ッ!」
風は私達の身体を掻っ攫い、横へ押し流す。
そのせいで、着地予想点が大幅にズレた。
(どこに落ちる!?)
押し流された方向に目を向けると、何とも運が悪いことに、丁度林冠が途切れて土肌が顔を覗かせていた。
専門用語で、ギャップというヤツだ。
このままでは、全員怪我をしてしまう。
考えるより前に身体が動いた。
懐をまさぐり、翡翠を四つ掴んだ。
それを、林冠にぽっかりと空いた穴めがけて投げる。
「《珠玉法―翡翠・蔦葛―四重奏》ッ!」
刹那、四つの宝石からそれぞれ四本ずつ、計十六本の蔦が出現し、周りの木々に絡みつく。
互いに交差するように蔦同士でも絡み合い、林冠の穴を埋めるかのように、蔦でできたネットが完成した。
その即席クッションへと、真っ逆さまに落下していく私達。
果たして、蔦の強度は十分だった。
五人が次々にぶつかっても千切れることなく、身体を受け止め、優しく包み込んだのだった。
「な、なんとか助かったようだな」
「う~、フィリア、空飛ぶの今日で二度目だよぉ」
レイシアとフィリアは、震える声でそう答える。
セルフィスとヘレドに至っては、蔦のネットの上で大の字になり、目を回していた。
よほど強烈なショックを受けたらしい。
悪いことをしてしまったと、苦笑交じりに思うのだった。




