第十章13 レッツ・ダイブ!
とりあえず、行き先は決まった。
「下座へ生きましょう。絶対に、シェリーはそこにいる」
「それが懸命だな」
レイシアも、二つ返事で頷く。
しかし、すかさずセルフィスが口を挟んだ。
「でも、階段は通行証がないと通れないのでしょう?」
彼女の言うことはもっともだ。
どういうわけか知らないが、下座との連絡路は上座の連中が管理しているらしい。
貴重な連絡用通路であるはずなのに、どうりで階段を利用する者が一人もいなかったわけだ。
しかし、その程度では引き下がる理由にはならない。
階段を使えないから仕方ない。
なんて諦められる連中なら、今までなんの苦労もないからだ。
「さて、お前の出番だよ。フィリア」
「……え? 私?」
急に名前を呼ばれて、フィリアはきょとんと首を傾げる。
そんな彼女を試そうと、私はクイズを出した。
「さて問題です。私達は下に降りたいですが、階段は通れません。さて、貴方ならどうしますか?」
「飛び降りる」
「大正解!」
私はサムズアップして、フィリアの頭を撫でた。
「いや阿呆か!?」
たまらずレイシアがツッコミを入れる。
「貴様ら正気か!? ここから地面までは、優に一〇〇メートルはある。飛び降りたら、骨折どころでは済まんぞ!」
「わかってます。でも、魔術を使えばどうとでもなる」
「それはそうだがな……ちと、魔術を過大評価しすぎな気もするが」
「仮にその方法がダメでも――ほら、あそこを見てください」
私は、崖の途中を指さした。
反射的にレイシアも、指さした方向を見すえる。
「――なるほど、崖の途中にいくつか出っ張りがあるな」
「はい、それを足場にしていけば、辛うじて下に降りることはできると思います」
切り立った崖と言っても、結局は自然の産物。
垂直で出っ張りの一つもない崖など、存在しないのだ。
「貴様の言うことも一理ある。だがな」
レイシアは、あくまで冷静に分析する。
「余や貴様、フィリアなどは職業がら足腰を鍛えているから、問題ないだろう。だが、王女様や風が吹いただけで折れそうなもやし男がいるから、無理だ」
「風が吹いただけで折れそうなもやし男ですいませんでした……」
ヘレドは再度縮こまってしまう。
「確かに、このメンバーで逆ロッククライミングは難易度が高そうですね」
「じゃあ、やっぱり飛び降りる?」
フィリアは、意気揚々と発言する。
結局フィリアの提案が、一番いいかもしれない。
「飛び降りましょう、みんなで」
「端から見れば、集団飛び降り自殺だがな――」
「死ななきゃ問題ないです」
というわけで、レッツ落下だ。
行き当たりばったりな気もするけど、スリルがある異世界生活も悪くない。
この程度のスリルは、ネイルと戦った時の絶望に比べれば、可愛いものだ。
「じゃあ、いいですか?」
「ああ」
「こ、怖いけど頑張ります……!」
一応確認だけとると、「いっせーので!」の掛け声と共に、私達は一斉に崖から飛び降りた。




