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第二章15 戦局の変わる音

 魔術師達の脇をすり抜けるように立ち回る。

 その中には、手を繋がれて、虚ろな目をした人々――〈契約奴隷サーヴァント・スレイヴ〉が混じっていて。


(要するに、この人達を傷つけないように立ち回れってことか!)


契約奴隷サーヴァント・スレイヴ〉は、クスリによって自我を抑えられ、外道魔術師達に付き従わされているだけの、一般人だ。

殺しでもすれば、寝覚めが悪い。


(だから斬るのは魔術師だけ)


 僕は、四方八方の魔術師達を見回す。

 詠唱中の魔術師のてのひらで、紫電が蛇のようにのたうち回り、矛先は全てこちらに向いている。

 転生前の僕なら、四方八方からの集中砲火で蜂の巣にされて死んでいただろう。


 だが……今の僕は、頼れるフィリアの兄であり、溢れるパワーを身につけた男なのだ。

 故に――


(僕ならやれるッ!)


 根拠を《男》に委ねた謎の自信で、自らの優位を確信したそのとき。


「「「「《――霹靂ブリッツ》ッ」」」」


 魔術師達の呪文が完成し、一斉に稲妻が飛ぶ。

 周囲の魔術師からの同時攻撃。高速で接近する雷閃を見据え、僕は剣を構える。


 左足を固定し、右足で地面を強く蹴って、左足を軸に一回転した。

 宵闇に弧を描いて剣閃けんせんが踊る。

 構えた剣の切っ先が、肉薄する紫電を悉く弾き返した。

 弾かれた紫電は術者の元へと帰っていき、着弾。


「「「「ぎゃぁああああああッ!」」」」


 身体に絡みつく雷の衝撃で魔術師達は身体を痙攣させて意識を失い、その場に倒れ伏した。

 けれど、それで全ての魔術師が沈黙したわけではない。


「「「「《削命法レーベン・ラオベン結氷アイシクル》」」」」


 倒れた魔術師の向こうには、〈契約奴隷サーヴァント・スレイヴ〉を付き従えた新たな魔術師が隊列を組んで、既に詠唱をしており。

 右手の先に出来上がった氷塊が、渦巻く冷気を纏って迫る。


「くっ。」


 咄嗟に身を捻って躱す。顔のすぐ横を氷塊の放つ冷気が通り過ぎた。

 体制を立て直し、後列の魔術師達に向かって駆け出す。

 それを見て取った魔術師達はわらわらと後退を始めるが、目に見えて遅い。

 あっという間に追いついた。


 まあ、当然と言えば当然だ。

 〈契約奴隷サーヴァント・スレイヴ〉と繋がっている上に、集団で行動しているのだから。


「やぁああああッ!」


 男っぽい掛け声を上げ、裂帛れっぱくの気迫と共に左下から切り上げる。

 切り口から鮮やかな緋色を咲かせて崩れ落ちる一人を尻目に、更に剣を振るう。


 弧を描く腕は鞭のようにしなやかで、鷹のように雄々しく。

 虚空を斬る銀閃が外道に堕ちた魔術師達を次々に切り伏せる。

 太刀筋こそ鋭いけれど、傷は浅い。僕の甘さと言ってしまえばそれまでだけれど、やはり殺す気にはなれなかった。


 さながら一陣の風となって魔術師達を翻弄する中で、視界の端に遠くから高速で飛んで来る何かが見えた。


「なっ――!」


 魔術師達の群れをかいくぐって接近するそれは……針のように鋭く錬成された氷柱つらら

 避ける間もなく目と鼻の先まで迫った氷柱つららは、情け容赦なく僕の眉間を貫こうと――


「おにいッ!」


 する直前、後方からフィリアの呼ぶ声が聞こえ、同時に視界の端から銀色の光が飛び込んできた。


 ガキィンッ!


 鋭い音が響いて、飛び込んできた銀閃が氷柱と激突。

 まさに今僕を貫こうとしていた氷柱は進路を変え、明後日の方向に飛んでいく。

 と同時に、ことりと軽い音を立てて何かが地面に落ちた。


「これって……フィリアの剣?」


 地面に落ちたそれが、フィリアの投げた剣であることを理解したのと同時に、フィリアが息せき切って駆けてきた。


「おにい、大丈夫!?」


 フィリアは地面に落ちた剣を拾い上げながら、僕の顔を覗き込んでくる。


「う、うん。ありがと助かった」


 どうやら、フィリアに助太刀されてしまったらしい。頼れる兄としては二〇点である。


「やーるじゃねぇか、フィリア。少し見直したぜ」


 そこへ、ロディも追いついてくる。


「獲物を投げて氷柱の軌道を逸らすたぁ、頭の足りないお前さんにしてはグッドなアイデアだったぜ?」

「それ褒めてるのかけなしてるのかどっち?」

「両方だ」

「何それムカつくんだけど」

「そいつぁ悪かったよ。……ところでカース」


 急に話を振られて、慌てて「何?」と返す。


「戦局が変わりそうだぜ? 気ぃ付けろよ」


 そう告げるロディの表情には、僅かだが緊張が走っているように見えた。


「え? それってどういう……?」

「俺達が突破口を開いたことで、魔術師達の前線は崩れ、指揮系統はズタズタ。文字通り烏合の衆だ。第二陣がこの戦線に到着し、ようやっと近接戦を仕掛けられる状況になった。」


 ロディが横を見るのに吊られて、僕もその方向を見る。


「「うぉおおおおおおおお!」」

「「進め、進めぇええええ!」」

「「突撃ぃいいいいいいい!」」


 盾と剣を構えた第二陣の騎士達が、隊列を崩した魔術師達の懐に飛び込んでゆくのが映った。

 見かけ上は、完全にこちら側に有利な戦局となっている。


「だがな……」


 ロディは憎々しげに言葉を続けた。


「お前は気付いたか知らんが、お前を狙ったさっきの氷柱……並大抵の錬成精度じゃなかったぞ。おまけに速度もだ。おそらくいるぞ。魔術師達の奥に、こいつらを遙かにしのぐ強さの魔術師がな。」

「まさか、そんな……」


 訝しんでそう答えた、まさにそのときだった。

 


 



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― 新着の感想 ―
[良い点] <鮮やかな緋色を咲かせて崩れ落ちる <頼れる兄としては二〇点である。 痺れたのでパクっていいですか?????????????? 表現力やばすぎません????????? [一言] これだ…
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