第十章7 フリマの準備
――かくして、フリーマーケットの準備が始まった。
まずは、売る商品を決めなければならない。
王国にいた際使っていた皿や、ハンカチーフ。
ククの実などの香辛料や、チョコレートなどの砂糖菓子も。
ぱっと見、この村に無さそうなものを持ち物から選別していく。
「……日用品ばかりだけど、本当に売れるの?」
品に目立った傷や汚れがないか、荒っぽい手つきで見定めながら、フィリアが呟いた。
「売れるよ。この村の人達からすれば、どれも珍しいものばかりなんだから」
「ふ~ん、そう」
つまらなそうに答えた瞬間、フィリアの手から、つるりと皿が滑り落ちた。
パリン。
乾いた音を立てて、皿が割れ砕ける。
「……あ。やっちった」
「こら」
呆けたような呟きをこぼすフィリアに、すかさずチョップを入れる。
「もう。大事な商品なんだから、もう少し丁寧に扱って」
「めんごめんご、てへっ」
片目を瞑って舌をだし、可愛らしい仕草で謝るフィリア。
うん。
許そう(即決)。
「ところで、どの辺りで売るつもりだ?」
割れた皿の破片を片づけていると、菓子が腐っていないかをチェックしていたレイシアが、問うてきた。
「街の外れがいいと思います」
「そうか? 人通りの多い大通りや、城の近くの方がいい気もするが」
「それも一瞬考えたんですがね……」
私は、苦笑しながら視線を斜め上へ向ける。
緑青を着込んだ立派な屋根を持つ天守閣が、空に向かってそびえている。
その頂点には、この村の態勢を示すかのごとく、黄金に塗られた鯱が居座っていた。
「考えてもみてくださいよ。事実上の不法入国をしている私達が、ハゲなんとか様の陣取る場所の近くで、大々的に商売なんてしようものなら、それこそ打ち首にされますよ」
「はははっ、違いない」
レイシアは、口角を上げて笑ってみせる。
「まあ、これだけ珍妙な品が揃ってるんだ。人通りのない路地裏で市を開いたって、売れるさ」
「路地裏で珍妙な品を売るって、それもうただの闇市じゃん!」
フィリアの発言で、どっと笑いが起きた。
「言われてみればその通りだな。どのみち打ち首確定か」
「そこそこの人通りがある場所で、ぱぱっと売って、さっさと引き上げましょう」
「そうするか。……よし、一応チェックした範囲では、特に腐っていそうな菓子はなさそうだ」
レイシアは、あめ玉の入った小さなガラス瓶に蓋をした。
「確認、ありがとうございます」
「子細無い。菓子で腹を壊す者が現れたら、そのときは面倒ごとになりそうだからな」
レイシアは、冗談めかして言った。
その裏で。
パリン。
また、何かが割れた音が響いた。
――もう、見なくても何が起きたのかわかる。
「フィ~リ~ア~?」
「は、はい……」
「気をつけろって言ったでしょぉおおおお!」
「ごめんごめんごめんごめん!」
高い空の下、フィリアの悲鳴が響き渡るのだった。




