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第十章6 シェリーの逆鱗

「え、ダメなの?」

「駄目に決まってるよ……」


 私は、大きくため息をつく。

 偽札にせさつ作りは、重大な犯罪だ。


 もし大量にお金を世に放とうものなら、たちまち貨幣かへい価値が没落ぼつらくし、ハイパーインフレが起こる。

 わかりやすく説明すると、おにぎり一個買うのに一万円払わなければならない――というような状況が起こるのだ。


 物価を中心に政治がガタガタになること請け合いである。

 

 ――なんて話をフィリアにしても、首を傾げるだけだろうけど。


「むぅ……じゃあ、他にどうしろっていうのさ」


 不満そうに眉をゆがめ、指先でツンツンと叩いてくるフィリア。

 ――本人にとっては一応これが、ベストアイデアだったのが驚きだ。


「――私達の持ち物を売るっていうのは、どうでしょう?」


 ふと、セルフィスがそんなことを言った。


「それ、いいんじゃないですか!?」

「おお、ナイスアイデア!」


 私とフィリアの声が重なる。


 なるほど、その手があったか。

 要らなくなったものを売って、お金を得る――いわゆる、フリーマーケットのようなものだ。


 加えて、私達の持っているモノはどれも、このくににはないものばかり。

 異国の品である。


 戦国時代なんかの日本でも、海を渡ってきた舶来品はくらいひんなんかは、大層な高値で取り引きされたそうな。


「流石は王女様。良い意見です」

「いえ、そんな……」


 口々に褒められて恥ずかしいのか、セルフィスは頬を赤らめる。


「よし。その体で行こう」


 レイシアは大きく頷きつつ、腰に下げた革袋から宝石を幾つか取り出した。

 ルビーやエメラルド、琥珀こはくなど、色とりどりの石が、陽光を受けて輝きを放つ。


「幸い、こちらには、ちゃんと金になりそうなものはある」


 宝石を売れば、お金になる。

 多少、宝石の採れる量は前世より多いのかもしれないが、宝石=高価でそれなりの需要があるという概念は、同じなようだ。


 しかし――それにすかさず待ったをかける者がいた。


「宝石を売るのは、やめておいた方がよろしいかと存じます」


 そう言ったのは、ヘレドだった。

 普段のほんわかとした様子からは考えられないくらい真剣な表情で、真っ直ぐとレイシアに向きあっている。


 この顔は、一度見たことがある。

 彼と初めて知り合った夜、「シェリーに男の姿で接近しないように」と忠告してきた時と、同じ顔だ。


 いつもと違う空気を感じ取ったのか、レイシアは目を細めて、ゆっくりとヘレドに問い返した。


「どういうことだ? それは……」

「詳細は言いかねますが、その行為は逆に主様の逆鱗げきりんに触れるものなのです」

「そうなのか?」

「はい」


 ヘレドは神妙に頷く。


 たぶん、宝石加工職人としてのプライドがあるんだろう。


 それはそうと、もし彼の言うとおりなら、確かに宝石は売らない方が良い。

 現状、彼女からは一方的に嫌われてしまった常態にあると言っていい。


 そんな状況では、火に油を注ぐ行為もいいところだ。

 それはレイシアもわかっているらしく。


「了解した。宝石以外のものを売るようにしよう」


 殊勝しゅしょうに応じるのだった。


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