第二章14 逃避行と反撃と
「「「「《削命法―霹靂)》」」」」
「「「「《削命法―霹靂)》」」」」
真っ直ぐにこちらに向けられた掌が紫色に光る。
バチバチと音を立てて稲妻が走り、僕の方に殺到する。
「ちょ、ちょっ! ちょおっとタンマぁああああッ!」
頭上で剣を回しているせいで両手を使えない僕は、脱兎の如く逃げ回る。
逃げる僕の頬を、肩を、脇腹を。幾条ものの霹靂が鋭く掠めては過ぎ去っていく。地面に着弾した稲妻は、たちまち地面を焦がして煙を上げる。
「うわぁああああああああああッ! 危なぁ!」
特撮の演出だとしたら少々殺意が高すぎる空間を、ヘリコプターのように剣をぶん回しながら全速力で駆け抜ける。
【前門の虎、後門の狼】ならぬ、【上空の氷、横っ腹の雷】だ。
こうも絶え間なく攻撃されたのでは、反撃のチャンスなど見いだせようはずもない。
(まったく。いつまでもヘリコプターごっこを続けるわけにはいかないんだよッ)
僕は歯がみしつつ、魔術師達の方を見る。
その手は依然、こちらを捉えており。
「「「「《削命法―霹靂)》」」」」
「「「「《削命法―霹靂)》」」」」
再び掌に膨大な魔力が集まり、バチバチと電気が走っていくのが見え――
そのとき、両手に絶え間なくかかり続けていた振動が消えた。
「まさかッ?」
僕は空を見上げる。
やはりそうだ。空を埋め尽くしていた氷柱が、全て無くなっている。今丁度、殺戮の雨が止んだのだ。
それと同時に、魔術師達の手から稲妻が一斉に放たれた。
迫り来る雷撃。だが上方からの攻撃が無くなったことで、両手が空き、更に連続攻撃の間に僅かなタイムラグが生まれた。
「しめたっ!」
咄嗟に剣を振るい、肉薄する雷閃を片っ端からはたき落とす。
攻撃が一方向からのみに限定されるというなら、対処も可能というものだ。
転生したときに得た男☆ぱわーと剣技を駆使して攻撃を捌ききる。
攻撃が止んだ瞬間を見計らって、僕は一気に魔術師達めがけて駆け出した。
こちらに照準を合わせ、右手をゆっくりと向ける魔術師達。
(間に合うかな――?)
できれば魔術を撃たれる前に、近接格闘戦の距離まで近づきたい。
みるみる縮まる彼我の距離。
一〇〇メートル――八〇メートル――五〇メートル。
だが、殺す気でいる彼らが、詠唱を待ってくれるはずはない。
「「「「《削命法――》」」」
魔術師達が一斉に詠唱を開始し、その手に魔力の光が渦を巻く。
「間に合わないかもッ!」
残り三〇メートルまで迫ったが、こちらが射程内に捉えるよりはやく、向こうの魔術が起動するはずだ。
僕は、悔しさにギリリと歯を鳴らし……
「「「「《――暴風》」」」」
残り一〇メートル。
目前で魔術師達の魔術が完成。唸る暴風が大気を食い荒らし、凄まじい音と共に迫る。
が。
「進めッ!」
真横からの一喝。
何事かと振り向いた僕の視界に、バスターソードを振り抜いた格好のロディが一瞬映る。
その瞬間。
僕と暴風の間を、一陣の風が大地を割りながら駆け抜けた。
指向性を持った風は魔術師達の放った暴風から僕を守る盾となり、攻撃を寄せ付けない。
「こ、これは!」
十中八九、ロディの放った斬撃だろう。
剣圧が風の刃を生み、攻撃を防ぐ防御壁として機能したのだ。
その風の盾が消失した後には、一直線に深くえぐり取られた大地があるだけで、魔術師達の魔術は跡形も無く霧散していた。
「ナイス、ロディッ!」
「おうよッ!」
ロディを一瞥し、僕は再び地面を蹴って駆け出す。
「「「「ッ。《削命法――》」」」
再び魔術師達は詠唱を開始するが、今更間に合うはずがない。
斬撃によりえぐられた地面を飛び越え、詠唱中の魔術師達の懐に飛び込んだ。
〇メートル。
ここは、騎士の距離だ。




