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第九章19 筏に別れを告げて

「……ぇ」


 掠れた声を上げ、信じがたい現実に目をく。


 なんと。

 地面スレスレの位置で、筏がピタリと静止していたのだ。

 まるで、見えない力で上から引っ張られているかのように。


「……なっ! これは一体」

「何が、起こってるのだ……?」


 レイシアとシェリーが、パチパチと瞬きをして、疑問を口にする。

 他の皆も、少なからず驚いているようだが――私は、ある人物が示したリアクションの違和感を見逃さなかった。


 筏の端に陣取ったもやし男――ヘレドが、ほんの一瞬、にやりと不気味に笑ったのだ。


(……まさか)


 私は、一度目をつむった後、よりしっかり表情を見ようと、目を大きく見開いて彼を凝視した。


 だが、もう一度目を開いたとき。

 彼の表情は、いつも通りの爽やかなものに戻っていた。


(気のせい……なのかな)


 私は視線を落とし、思案にふける。


 一瞬のあの笑み――いかにも、彼が筏の落下を止めたように映ったのだが。

 うん。

 たぶん気のせいだ。


 だって、あんなもやし男がこれほどの質量の物体の落下を止められるはずがない。


 それに、何らかの魔術を使った気配もなかった。

 だからきっと気のせいだ。


 そんな煮え切らない思いを抱いていたからか、わからないが。


「おにい~早く行こうよ! もうみんな降りてるよ」


 フィリアの呼びかけに、ハッとする。

 気付けば、ヘレドも含め、全員が筏からおりていた。

 私だけが、不自然に浮いている筏に残った常態だった。


「早くしないと置いてくよ!」

「う、うん。すぐに行くよ」


 私は筏から下りて、フィリアの元へ向かう。

 そのとき。

 

 ガコンッ。

 と音を立てて、まるで吊り下げている糸が切れたかのように、筏が地面に落下した。


「なんか……空飛ぶ魔法の絨毯じゅうたんみたいって思ってたけど……本当に魔法の絨毯だったのかな」

「そうじゃない? わかんないけど」


 私の呆けたような呟きに、フィリアが反応する。


「不思議なことが起きて、少し気持ち悪いけど。命があったんだからいいじゃん!」


 フィリアは吹っ切れたような表情を浮かべ、バシバシと背中を叩いてくる。


「い、痛い痛い!」

「ご、ごめん」


 慌てて手を引っ込めるフィリア。

 私は、ヒリヒリと痛む背中をさすりつつ、気持ちを切り替えるように息を吸った。


「原理はよくわかんないけど、助かった。ありがと、筏さん」


 とりあえず一言礼を言っておき、きびすを返す。


 振り向きざま、ちらりとヘレドの横顔を盗み見る。

 が。


 彼はいつも通りの柔和にゅうわな笑みを浮かべているだけで、その真意を掴ませてはくれなかった。


 ――かくして、ヘレドに対する疑問を心の奥にしまったまま、私達はニタ村を散策することとなったのだ。


 しかし、この村にはある影が潜んでいることを――この時の私は知るよしもなかった。


第九章、これにて完結です!!


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