第九章17 筏、空飛ぶ絨毯と化す!?
「冷静に判断して、魔術で風を起こすくらいしかないんじゃ……」
「そういうことになるな。だが、突風にこの筏が耐えられるかどうか……」
レイシアは、細い指を筏に這わせて、力を込める。
ダメージを受けた丸太は、ミシミシと音を立てた。
「その部分は、賭けじゃないですか?」
「無論だ。沈めば運が悪かったと言うほかないな」
「お、おぅ……なかなか、剛胆な計画なのだ……」
側で聞いていたシェリーが、密かに脂汗を垂らした。
と、そのときだ。
にわかに、水面が騒がしく泡立ってきた。
それと同時に、筏が揺れ始める。
「……なんだ?」
レイシアが訝しむように目を細め、水面下をじっと見つめる。
筏の下に、黒い影が現れて――
「――まさか」
私は、なんとなく事態を察した。
次の瞬間だった。
ドォオオオンッ!
凄まじい衝撃と共に、筏が宙に浮いた。
「な、なんとぉおおおおおおッ!?」
筏を吹き飛ばした犯人は、言わずもがな先程退散させたデカブトだ。
報復のつもりなのだろう。
水中から、思いっきり頭突きを仕掛けてきたのだ。
宙に浮いた筏は、勢いのままに空を滑走する。
当然、私達を乗せたままだから、まるで魔法の絨毯のようだ。
「おい、貴様! さっき「退散させた」と言ったよな!?」
空を飛びながら、レイシアがまくし立てる。
「いやまあ……そうなんですけど、まさかまだあんなに動けたなんて。自然て恐ろしいですね」
「自然て恐ろしいですね。なんて呑気に言っている場合か!? 幸い目的地方面に飛ばしてくれたからいいものの、下を見てみろ!」
「え? 下?」
私は、筏の縁から眼下の光景を見下ろした。
なんと驚くことに、既に対岸を飛び越え、見渡す限りの湿原の上空を猛スピードで通過していたのだ。
おまけに、ぽつぽつと生えている木がどんどん小さくなっている辺り、どうやらまだ上昇を続けているらしい。
「あーこれは……とんでもないことになってますね」
「そういうことだ。着地は、どうする気だ? このままいくと、とんでもない速度で地面にたたき付けられるぞ?」
「それは、困りましたね」
「他人事か貴様……」
レイシアは小さくため息をつく。
他人事だなんてとんでもない。
状況があまりにも天変地異すぎて、いろいろと思考停止しているだけだ。
ふと進行方向を見れば、大きな峰がデンと構えている。
頭に描いた地図が示すには……おそらくオウ山脈だろう。
その向こうにはニタ村と、トツ山脈があり、それを越えた先に〈リラスト帝国〉がある。
あくまで目算ではあるが――オウ山脈は、このまま飛び越えるだろう。
その先はどうなるかわからない。
たぶん、ニタ村あたりに落下するだろうが――その先、どうなってしまうのだろうか。
少なくとも、普通に落下すれば命はない。
(とりあえず、この状況を打開できそうな人は――)
私は身近に希望を見出そうと、周りのメンツを見渡した。




