第九章15 今度は水中戦!?
「一か八か……やってみよう!」
私は、無い頭で練り上げた作戦を、実行に移した。
炎の魔術のような範囲攻撃では、デカブトの甲冑のような身体を貫けない。
かと言って、光の魔術のような一点突破の攻撃では、いとも容易く避けられてしまう。
ならば――
「こうするしかないでしょ!」
懐から翡翠を取り出し、呪文を叫んだ。
「《珠玉法―翡翠・蔦葛》ッ!」
翡翠が割れ、中から四本の蔦が出現。
それぞれが肉薄するデカブトの胴を、角を、羽を、頭を絡め取り縛り上げる。
しかし、敵もさるもの。
飛行攻撃が不可能と悟ったか、咄嗟に水中へ逃げた。
おそらく、水中から加速をつけて突進攻撃を仕掛けて来るのだろう。
だが、それは私の想定内だ。
「逃がさないよ!」
水中に引きずり込まれていく蔦の端を握り、私もまた水中に飛び込んだ。
この先端は、デカブトに繋がれている。
思った数倍深い川底へ急降下しつつ、私は蔦を辿る。
人間は、水中で息が出来ない。
それに、あまり深く潜られると、水圧の急激な変化による潜水病に罹る危険だってある。
早急に勝負を付けてしまわねば。
急いで蔦を辿ると、その先にデカブトがいた。
(捕らえたッ!)
私はデカブトの後ろ足に手を伸ばす。
そのときだった。
ずっと潜り続けていたデカブトが、急に大きく向きを変え、今度は上昇を始めたのだ。
(っ! さては、筏を沈める気だなッ)
そうはさせない!
後ろ足を強く握りしめ、デカブトの腹側に回る。
それから、腰に佩いた刀を抜いて、デカブトの脚の付け根に突き立てた。
どんなに堅牢な殻を有していようが、足下はガラ空きだ。
そんな場所に、一点に力を込めたら、流石のデカブトも無事ではいられまい。
内心でほくそ笑む私――が、事はそう単純に運ばなかった。
(かっっった!?)
刃先を必死に突き立てるが、全くダメージを与えられない。
殻で守られていない、最も柔らかい部分を責め立てて、このザマである。
どうすればいい?
どうしたら、このお化けカブトムシを止められる……?
水面が近づいてくる。
もう幾ばくも猶予が無い。
(……あった!)
私は、なんとか方法を絞り出した。
しかし――果たしてコレは、水中でできるだろうか?
(一か八かだけど……お願い神様!)
私をこの世界に転生させた、気の利かない例の神に祈る。
それから、口の中に貯めた空気を吐き出して、呪文を唱えた。
「―《おぼぼ(男)》―」
全身から出る煙が水中に溶けてゆき、見事私の身体は転性を果たした。
(よっしゃ!)
水中で上手く発音できない状況だったが、なんとか反応してくれたようだ。
内心でガッツポーズをしつつ、僕は剣の柄に全身全霊の力を込めた。




