表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

273/304

第九章13 戦慄。 川の主とご対面

「う゛~……ぎもぢわるい」


 そんなしゃがれ声が、足下から聞こえる。

 反射的に下を見ると、丸太の上にうずくまっているシェリーがいた。


 顔色は真っ青。

 目をくるぐると回し、口元を小さな手で押さえている。


 えっと――状況から察するに、おそらく。


「もしかしてシェリー、船酔い?」

「な、なにを言ってるのだ? ボクが、船酔いなんてするわけが……うぇええ」


 まくし立てようとするが、その前に白目をいて水面に顔を落とした。

 

 付き人であるヘレドの方を見ると、彼は苦笑いを浮かべながら、こくりと頷いてみせた。


 なるほど。

 やっぱり船酔いらしい。


「まったく、だらしないな。大して揺れてないだろうが」


 レイシアがこちらへやって来て、シェリーを見下ろしながら、呆れたように言い捨てた。


「ゆ、揺れてるのだ……揺れすぎて吐きそうなのだ」

 

 シェリーはそう主張するが、私から見ても大して揺れている感じはない。

 そもそもこれだけ川幅の広い大河たいがは、流れが緩やかと言うのが定石じょうせきだ。


 筏を大きく揺らすほどの高い波は、発生していない。


「世話のやけるヤツだな……ほら、うつぶせになれ」

「こう……なのだ?」


 顔を半分筏の外に出した格好で、シェリーは寝そべる。

 レイシアは、そんな彼女の背中をさすった。


「い、痛い。力が強いのだ」

「うるさい。力加減が苦手なんだ」


 レイシアは鼻をならしつつ、シェリーの様子を見続ける。


なんというか――不器用なだけで、思いやりのある人だと思った。

 私が思わず、笑みをこぼした……そのときだった。


(……?)


 私は、水面の下が僅かにかげったのを見た。

 それと同時に、出航前シェリーが言っていた言葉を思い出す。


「危ないッ!」


 私はとある危険を察知するや否や、半分身体を乗り出していたシェリーを、強引に引き戻す。

 刹那せつな


 ドォオオオンッ!

 凄まじい音を立てて、水柱が立ち上がった。


 何かが、シェリーの頭を狙って思いっきり水中から飛び出したのだ。

 あと一秒、危険を察知するのが遅かったら、シェリーの首はソイツに持っていかれていただろう。


 そして、この状況から察するにソイツは――


「川のぬしか……!」


 私は、水柱の向こうを見据える。

 水しぶきが収まり、ソイツの全貌ぜんぼうが明らかになった。


「なっ――!?」


 私は、思わず絶句した。


 川の主が、想像を絶するほどに凶暴きょうぼうな見た目で――というわけではなく。


 まず、身体の色は漆黒。

 頭部には巨大な角が一本生えており、腹部には三対の細い脚。甲冑かっちゅうのような見た目の前羽を左右に開き、薄い後ろ羽を高速ではためかせて宙に浮いている。


 そう、その姿はまるで――


「カブト……ムシ?」


 え? どういうこと?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ