第九章11 適材適所?
――かくして、私達は川を渡るための筏作りに取りかかった。
担当分担は、私とセルフィス、シェリーが帆作り。
フィリアが木材の切り出し。
レイシアとヘレドが、蔦を使って切った木をつなげる係だ。
大量の木を切るという重労働を、フィリア一人に任せて大丈夫だろうか……?
レイシアとヘレドの二人を、くっつけて大丈夫だろうか……なんか、ギスギスしそうだし。
などと、最初は「保護者か!?」とツッコミが入りそうなくらい、心配していたのだけど――どうやら、杞憂に終わったらしい。
ズバババッ、ズドーンッ!
林の方からもの凄い音が響き渡り、次の瞬間。
ミシミシと音を立てて、林冠の一部が沈んだ。
その音に驚いた鳥たちが、翼をバサバサと忙しなく動かして、空へ上っていく。
言わずもがな。
フィリアが木をまとめて切り倒したのだ。
「あーあ、派手にやってるね」
私は作業の手を止めて、林の方を凝視した。
「思い切りがいい子なのだ。あれくらいじゃないと、世間は渡っていけないのだ」
「そうなの?」
「そうなのだ」
葉っぱの葉脈に沿って切れ込みを入れながら、シェリーはこくりと頷く。
私より年齢が若いとは言え、既に宝石加工職人という名誉を手にしている。
あくまで憶測ではあるけど、彼女の方が世渡りは上手いだろう。
「それにしても、意外なのだな……」
ふと、シェリーが別の方向を見たのに釣られて、私もその方角を見る。
そこでは、レイシアとヘレドが、黙々と作業をしていた。
「貴様、蔦の結び目が綻んでいるぞ」
「す、すいません……こうですか?」
「緩い。もっとキツく結べ。男のくせに、腕力がなさすぎる」
「ご、ごめんなさい」
「はぁ……謝らんでもいいから、手を動かせ」
「申し訳ありません」
――なんというか、うん。
完全にヘレドが、尻に敷かれている。
「まさかヘレドが、ボク以外の人間に対して、あそこまで従順だとは」
「従順……て言って良いのかな、あれ」
手懐けられている、の間違いではなかろうか?
何にせよ、ギスギスしないギリギリのラインだから、セーフと言っていいだろう。
「――よし、できたのだ!」
一際明るい声を放つシェリーに目を向ければ、いつの間にか沢山の葉が、綺麗に組み合わさって連なっている。
「す、凄いね。もうできたの」
「当たり前なのだ! ボクを誰だと思っているのだ!」
ここぞとばかりにふんぞり返るシェリー。
ウザいことこの上ない。
「むむむ……やり方を教えたばかりなのに、中々やりますね」
隣のセルフィスが、ふくれっ面でシェリーを睨む。
「当然なのだ。こう見えても、ボクは手先が器用なのだ! 王女様に負けてたら、職人の名折れなのだ!」
「ぐぬぬぅ。私だって、お父様に内緒で嫁入り修行を……裁縫や料理はたくさんしたのに!」
(え? 嫁入り修行……?)
セルフィスの嫁入り修行か……
うん、ちょっとだけ見てみたい気もする。
そんな浮かれたことを考える私の前で、二人の会話はエスカレートしていく。
「じゃあ、次のターンは勝負といくのだ!」
「望むところです! ぜっっったい、負けません!」
帆作り対決という謎な状況に突入し、筏作りの時間は飛ぶように過ぎていくのだった。




