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第九章8 レイシアの気遣い

 △▼△▼△▼


 その後、私達は土手に上がり、焚き火を囲んで暖をとった。


 理由は単純明白。


 私は、フィリアの悪戯いたずらを受け川に落下。

 セルフィスはとばっちりを受け、全身ずぶ濡れ。

 フィリアは、キレたセルフィスに吹き飛ばされ水没。

 

 ヘレドは、川に入って魚を捕っていたところ、シェリーに水をかけられ水難にい――その報復としてシェリーに水をかけたため、彼女もまたびしょびしょになってしまったのだ。


 唯一レイシアだけが無事――と言いたいところだが、彼女の全身からは、ヒタヒタと水滴がしたたっていた。


「――それで、どうしてレイシアさんは、自分から水を被ったんです?」


 私は、焚き火の向こう側に座って手を伸ばしているレイシアに問うた。


 最初こそ、ずぶ濡れになった五人だけで焚き火を囲んでいたのだが、何やら一人で事務作業をしていたらしいレイシアがそれに気付き、私達のところへ歩いてきた。

 

 そして、次の瞬間。

 何をとち狂ったのか、サファイアを頭上に投げて水の魔術を起動したのだ。


 当然、炸裂さくれつしたサファイアは大量の水を生み、直下にいるレイシアの頭上を直撃。

 

 理解が追いつかず、その光景を唖然あぜんと見ているしかなかった私達の輪の中に入り、平然と暖を取り始めたのだ。


 そうして、ようやく我に返った私は、その意味不明な行動の意図を問うたわけである。


「――なぜ、余が水を被ったかだと? わからぬのか?」


 レイシアは、やや不機嫌そうに眉の端を吊り上げる。

 琥珀こはく色の瞳の中で、焚き火の炎が揺らめいた。


「え、え~と……自分をいましめるため……ですか?」

「違うわ、馬鹿者」

「す、すいません」


 あっさり切り捨てられ、私はしゅんとしてしまう。


「ただ……まあ、その。なんだ」


 レイシアは、そっぽを向いておずおずと呟いた。


「余だけ仲間はずれというのも……気分が悪かったのでな」

「……へ?」


 私は、思わず呆気あっけにとられてしまった。


「なんだ。その妙な表情は。何か変なことを言ったか?」

「い、いえ。変ではない……と思います」

「今少し言いよどんだよな?」

「そ、そんなことないです!」


 私は慌てて首を左右に振る。

 幾つかの水滴が、たまとなって夜に散った。


「変なことは言ってないと思いますけど……」

「要は、それだけのためにわざわざ水を被る必要なんて無かった、とカースは言いたいのだ!」


 私の言葉を、端で聞いていたシェリーが継いでくれた。


「そう、それ! それです。焚き火に割って入るのに、濡れてなきゃ行けないなんてルールはありませんからね」

「まあ、そうだろうが……なんとなく、一人だけ状況が違うというのも、居心地が悪かったのでな」

「そ、そうですか。まあ本人がいいなら、構わないんですけどね」


 私は冷や汗を垂らしつつ、肯定した。


 これも、彼女の新しい生き方なのだ。

 ずっと一人で生きてきたレイシアは、他人に気を遣うのがとてつもなく下手だ。


 だけど、下手なりにこういう形で輪に入ろうとしている――そんな温かさを、彼女の行動から感じたのであった。





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