第九章7 治癒魔術の攻撃転用?
「ねぇ、フィリア」
「な、なに?」
「“ショック療法”って、知ってますか?」
「え……し、知らないけど」
「そうですか……」
セルフィスは、暗い目元のまま、淡々と話す。
ゆっくりと、ペンダントの中から葉っぱを取り出しながら――
「ショック療法とは、頭部に通電させて、脳の痙攣を人工的に誘発させる治療法のことです」
「つうでん……? ゆうはつ……?」
たぶんよくわかっていないフィリアが、きょとんと首を傾げる。
「簡単に言い換えると、身体に強い刺激を与えて強制的に蘇生する医療術なんです。その半ば強引な方法は――私の《葉療術》にも、実装されています。最も、通常の《葉療術―蘇生》では蘇生できなかった人を蘇生する最後の手段ですけど」
事務的な口調で言っているが――その内容の恐ろしさに、身震いを禁じ得なかった。
要するにセルフィスは――遠回しに「報復をする」と言っているのだ。
「それで、そのショック療法が、どうかしたの……?」
しかし、アホ属性のフィリアは、セルフィスの発言の意図を全く理解していない様子。
怪訝そうに眉をひそめるフィリアに、セルフィスは告げた。
「フィリアの病気を、治してあげようと思いまして」
「病気? フィリア別に病気じゃないよ」
「いいえ、立派な病気ですよ……頭の♡」
可愛らしく言い捨てて、セルフィスは葉っぱをフィリアの胸に突きつけた。
「へ? な、なに……?」
狼狽えるフィリアの前で、セルフィスは魔力を解放した。
「《葉療術―蘇生―覚醒》」
次の瞬間。
フィリアの胸元に押しつけられた葉っぱが、紫電を放つ。
「ばばばばば! しびびびびれれれれるるるるぅ~~~~ッ!」
全身を明滅させながら、マリオネットのように踊り狂うフィリア。
ていうか、ショック療法は頭に電流を流す治療法だって、さっき言ってたよね!?
なんで全身に電気流してるのさ!
そんな疑問を置き去りに、セルフィスは暗黒微笑を浮かべ、呟いた。
「《葉療術―心臓直圧》」
すると、紫電がピタリと止み、真っ黒になったフィリアの姿が現れる。
しかし、間髪入れずにフィリアの胸元から背中へかけて、強い衝撃波が駆け抜けた。
「かはっ!」
肺の空気を押し出されたフィリアが、大きく口を開けながら後方へ吹っ飛んでいく。
たぶん、今のは心臓マッサージの治癒魔術だと思うが――どう考えても、心臓マッサージの威力じゃない。
「や、やりすぎ……」
私は、なんとか一言声を絞り出せたところで、フィリアは、吹っ飛んでいった方向にある川の中へと落下した。
ざっばーん! という大きな音と共に、水柱が立ち上がる。
「……どう考えても、オーバーキルでしょ。これは」
フィリアの沈んでいく先を見ながら、私は脂汗を垂らすしかなかった。
「大丈夫ですよ。このくらいじゃ、フィリアは死にません」
そんな私へ、顔色が戻ったセルフィスが、実ににこやかに話しかけてくる。
「いや、まあそうだと思いますが……」
あいつ、殺しても死ななそうだし。
心の中でそう付け足す。
「心配しなくてもいいですよ、ちゃんと手加減はしましたから」
「てかげ……えぇ?」
その言葉に関しては、疑問を抱くより他なかった。




