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第九章3 悔やみ。側に寄り添って

「すいませんでした……」

「え?」


 突然謝罪を述べたことに驚いて、私はセルフィスの顔を見る。

 彼女は、遠くを見つめたまま、僅かに目を細めた。


 侘しさと憂いに満ちた表情をする彼女に、どう声をかけていいかわからず、私は戸惑ってしまう。


 しかし。

 そんな気まずい空気に耐えかねたのか、セルフィスはとつとつと語り出した。


「今日、私は盗賊の方達を見殺しにしました。シェリーさんに撃たれた時点で、みんなまだ微かに息をしていました。――私なら、救えたんです」


 肩を振るわせ、セルフィスは訴える。

 一筋の淡白い光が、頬を伝って落ちた。


「私のせいなんです。あの人達が死ななくちゃいけなかったのは、私の……ッ!」

「お、落ち着いてください」


 いてもたってもいられず、私は震える肩に手を置いた。


「セルフィスさんのせいなわけ、ないじゃないですか。だって、ああなったのは――」


 ――シェリーのせい。

 そう口にしようとして、言葉を引っ込めた。


 私はまだ、彼女のことを知らない。

 生意気で天真爛漫てんしんらんまんな宝石加工職人であること以外、何一つ知らないのだ。


 だから、一方的に彼女を責めることはできない。

 女のするどい直感だけど――彼女があんなことをしたのには、何か理由があると思ったから。


「ありがとうございます。でも――反省させてください。救えたはずの命なんです。あの場で、私しか、救えなかったはずの命なんです」

「それは……そうかもしれない、けど」


 私はまた口ごもってしまう。


 何か、勇気づけてあげたい。

 けれど、憔悴しょうすいしきっている彼女を救える言葉がなくて、何も言えない。

 そんな自分が、もどかしかった。


「私、怖かったんです」

「――それは、当たり前ですよ。いきなり、目の前であんな光景を見せられたら――」

「違うんです」

「え……?」

「確かにそれも怖かったけど、もっと怖かったのは……」

「……」


 私は、一瞬戸惑い、彼女の顔をじっと見つめる。

 セルフィスは、どこか後ろめたそうに顔を逸らした。


 その様子を見て、私は「もしや?」と悟る。


「ひょっとして、相手が男の人だったから……?」

「……」


 セルフィスは無言を貫き、唇を噛みしめる。

 たぶん、限りなく肯定に近い沈黙だった。


「……ずるいですよね、私。目の前で死にかけている人が四人もいたのに、トラウマがよみがえって、何もできなかった。私の我がままが、あの人達を殺したんです」


 セルフィスの肩が戦慄わななき、目元からポロポロとしずくが落ちる。

 こういうとき、やっぱり声をかけられない自分に、心底嫌気が差す。


 「貴方のせいじゃない」なんて言ったって、きっと彼女の心は救えない。

 そんな気休めでなんとかなるほど、女心は単純じゃないのは、よく知っている。


 だから私は、彼女の肩に手を回した。

 華奢な身体を引きよせ、私の身体に体重を預けさせる。

 右半身に、彼女の体温が伝わってきた。


 彼女が苦しんでいることには、あえて触れない。

 自分の身に余る言葉をかけるより、きっとこれが最善策だと信じて。


「~~っ、~~ッ!」


 私に体重を預けたまま、声を押し殺して嗚咽おえつするセルフィス。

 そんな彼女を、私はただ黙って受け入れるのだった。




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