表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/304

第二章12 ネイガ山脈絶対防衛戦

「ふっ。やってくれるぜバカ共が」


 現場に到着すると、ロディは憎まれ口を叩いた。だが、その皮肉にもキレがない。

 まあ、目前に広がる光景を見れば納得ができるというものだ。

 〈ロストナイン帝国〉との国境に位置する東地区。そこは今、激しい戦闘のまっただ中にあった。


「「「「《削命法レーベン・ラオベン火炎フレイム》」」」」

「「「「《削命法レーベン・ラオベン霹靂ブリッツ》」」」」


 詠唱が聞こえた直後、国境を決めるネイガ山脈の稜線りょうせんの向こう側が激しく明滅した。

 刹那、無数の火球と紫電が、夜空を駆けた。

 闇夜を裂いて飛翔するそれらは、既に防衛に当たっている騎士達に容赦なく降り注ぐ。


「「「「ぎゃぁああああああッ!」」」」

「「「「ぬぉおおおおおおおッ!」」」」


 あちこちから上がる絶叫。

 為す術無く地面に昏倒してゆく騎士達。


 ただ、何人かは攻撃が当たる直前に盾を構え、致命傷を逃れたようだが。


「「「「《削命法レーベン・ラオベン暴風ストーム》」」」」

「「「「《削命法レーベン・ラオベン暴風ストーム》」」」」


 稜線を覆う闇が、ぐにゃりと歪む。

 圧縮された空気が、まるで台風のように高速回転しながら、かろうじて立っている騎士達を次々に襲う。


「「「「ぁああああああああああッ!」」」」


  暴風に絡め取られた騎士達は、盾ごと夜空に舞い上がり、風に舞う木の葉のように空中を二転、三転踊って、地面に叩き付けられた。


「――ちっ。騎士達の教育がなってねぇな。もう少しハードな練習メニューにした方が良さそうだ」


 地面に転がっている瀕死の部下達を流し目で見ながら、ロディは忌々しげに言い捨てた。


「だけどこれ、そういう問題だけじゃないと思うよ」

「どういう意味だ」


 僕は、冷静に状況を分析しつつロディに告げる。


「騎士は近接戦がメインでしょ? 遠距離からこうも一方的に魔術を使われたんじゃ、なぶり殺しにされるだけだよ」

「そう言われりゃ確かにな。くそったれが。拳銃の訓練もさせとくべきだったぜ」

「飛び道具を使う騎士なんて、聞いたこと無いけどね」


 だが、冷静に考えて敵が遠距離から一方的に攻撃できるというのはフェアじゃない。

 騎士は何より剣による一対一の公平な闘いを重んじると聞いたことがあるけれど、相手は魔術師だ。騎士道なんてものが通用するはずもない。


 これは騎士同士の決闘ではなく、戦争なのだ。

 だから、公平なんてものは存在しないのだけど……やっぱりずるい。


「さてと、一陣はもう壊滅しちまったが、ぼちぼち始めるか」

「「「「はっ!」」」」


 気合いの入った声が聞こえて思わず振り向けば、いつの間にか背後に、剣と盾を構えた騎士達が隊列を組んで並んでいる。

 さしずめ第二陣といったところか。相変わらず剣と盾しか装備していないが、防衛網を敷いた第一陣の二の舞は踏んで欲しくないものである。


「お前らわかっているな? 差し違えても奴らの侵攻を許すんじゃないぞッ! トリッヒの明日に日常を!」

「「「「トリッヒの明日に日常を!」」」」


 復唱ふくしょうに沸き立つ騎士達。


 だが、際限なく高まる士気に水を差すかの如く、魔術師達がまた詠唱を始めた。


「「「「《削命法レーベン・ラオベン火炎フレイム》」」」」

「「「「《削命法レーベン・ラオベン火炎フレイム》」」」」


 山脈を紅が埋め尽くし、荒れ狂う大波となって駆け下りてくる。


「俺は先に行くぞ」

「え?」


 僕に目配せをして、ロディは地面を蹴って駆け出す。

 単身炎の津波に突っ込んでゆく、頼れる騎士長の背中を数秒見つめて――


「って、また抜け駆けか!」


 僕のツッコミは、もう豆粒くらいの大きさまで遠ざかったロディには届いていないだろう。


「フィリア、行くよッ!」

「う、うん!」


 僕達も、猪突猛進するロディを追って駆け出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 全体的に文章がわかりやすくて、情景がぱっと浮かんできます。 読みやすさは大事ですよ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ