第八章43 蹂躙と凱旋と……
「く、くそぉおおおッ」
「うぁああああああ!」
切羽詰まっているのが丸わかりの掠れ声を上げ、短剣を携えて迎え撃つ男達。
シェリーと盗賊達の間の距離はみるみるつまり、やがて近接格闘戦の間合いに入る。
本来であれば、遠距離から一方的に攻撃できる拳銃を持つシェリーは、わざわざ突っ込んでいく必要は無い。
常に距離を保ちながら立ち回るべきだ。
しかし、それをしないということは。
頭に血が上って冷静な判断を欠いているのか……それとも、自身の近接格闘術に余程の自信があるのか。
(ううん、その両方なんだ)
私は、冷や汗を流しながら狂戦士と化したシェリーの戦いを見守る。
「えぇいッ!」
男は、引き絞った腕を勢いよく伸ばす。
その手に握られた短剣の切っ先が、シェリーへと迫り――身体に触れる寸前で、彼女の姿が霞と消えた。
「な、にッ!?」
シェリーの姿を見失い、動揺を見せる男。
しかし、シェリーはその男に辺りを見まわす隙すら与えなかった。
「――三人目」
どんッ!
既に男の背後をとっていたシェリーは、銃口を背中に押しつけて、引き金を引いていた。
私の目にはかろうじて見えていたが、短剣に触れる直前に一瞬でかがみ、左足を軸に地面の上を反時計回りに滑って、男の背後に回っていたのだ。
なんという早業だろうか。
ゼロ距離で放たれた鉛玉が、男の胴体をいとも容易く貫通する。
その衝撃で、男は苦悶の声を上げる間もなく意識を刈り取られた。
「く、くそぉッ!?」
一人残された男は、苦し紛れに、シェリーの背後から短剣を突き立てようとする。
シェリーはそれを一瞥すらせず、左手の拳銃を、バレルが下向きに来るように持ち替える。
そして、拳銃をまるでトンファーのように扱って、短剣の切っ先を拳銃で受け止めた。
「なんだとぉッ!」
驚愕したように目を見開く男。
無理もない。
まったく振り返ること無く、圏での一撃を止めたのだから。
だが、力比べとなっては男の方に軍配が上がる。
大の男VS華奢な少女では、男の膂力が上であり、シェリーは徐々に押され始めた。
「このぉおおおッ!」
男は全体重をかける形で、剣を突き立てる腕に力を込める。
一気に勝負を決めるつもりなのだ。
――だが。
それを待っていた、と言わんばかりに、シェリーはその場から飛び退く。
「なぁッ!?」
突然、力を加える対象を失った男の身体は傾ぎ――
間髪入れずに、シェリーは右手の拳銃の撃鉄を起こした。
「――四人目」
その声は、発砲音に掻き消された。
男は胸部からパッと残酷なまでに赤い華を咲かせる。
それから、スローモーションにでもかかったかのように、ゆっくりと後ろに倒れ伏したのだった。




