第八章42 狂戦士
「死んで後悔するなよ!」
決め台詞とともに、男の手斧がシェリーを真っ二つに切り裂く――かに思えた。
「なぁッ!」
男は、驚愕に目を見開いた。
それは、私達も同じである。
なぜなら――シェリーは、軽い跳躍で宙に舞っていたからだ。
バサバサと、白いロングコートの裾がはためく。
シェリーは空中で体勢を立て直すと同時に、腰の後ろに両手を回して、あるものを二つ抜き取った。
それは――拳銃だ。
何やら古めかしい意匠をしているため、私が知っている拳銃の形とはどこか違っているが、紛れもなく拳銃である。
「パーカッションリボルバーか……ッ!」
それを見ていたレイシアが叫んだ。
「パーカッションリボルバー?」
そういえば、お父さんの友人がガンマニアで、それに触発されたのか、昔の銃の話とかもたまにしてたっけ。
たしか、火薬や弾丸の装填にもの凄い時間がかかる、リボルバータイプの拳銃のはずだ。
使われていた時期は、一八五〇年代。つまり、西部開拓時代のアメリカだって言ってた気がする。
この世界の火薬を使った武器は、まだあまり発展していないのかもしれない。
と、そんなことを考えていた矢先。
シェリーが右手に携えた拳銃が、火を噴いた。
銃口から吐き出された一発の球形弾頭は、狙い過つことなく、男の右腕に命中。
「ぐぅっ!」
男は苦悶の声を上げ、手斧を取り落とす。
それに追い打ちをかけるように、シェリーは更に左手の拳銃を撃つ。
どんっ!
鈍い音がして、鉛玉が男の脇腹を貫いた。
「――一人目」
シェリーは、淡々と戦果を呟く。
「なっ!?」
私は呆気にとられてしまった。
シェリーの豹変ぶりと――武器の威力に。
今撃った拳銃の一発の威力は、おそらく《珠玉法》の雷撃魔術に匹敵するだろう。
「なるほど。王国の上層部でも、魔術師や一般の兵士向けの予備携行火器としての導入を、密かに目論んでいることは知っていたが――まさか、これほどの威力だとは」
レイシアの独り言も、おそらく今のシェリーには聞こえていまい。
シェリーは、足音軽く地面に着地する。
そんなシェリーめがけて、
「くそったれがぁ!」
仲間を一人減らされ、半狂乱に陥った男が、バタフライナイフを手に突っ込む。
しかしシェリーは、その動きを難なく見切ってひらりと躱す。
すれ違い様、男の足を引っかけて転ばせ、同時に拳銃の撃鉄を起こした。
ガチャリと音を立てて、シリンダーが回る。
そして。
「――二人目」
暖かみを殺した声色で呟き、なんの躊躇いもなく引き金を引く。
男の身体から、緋色が散った。
それでもまだ、シェリーの猛攻は止まらない。
二人を打ち倒され、及び腰となった残りの盗賊達へ向け、一息に駆けだした。




