第八章41 盗賊団との遭遇
(あれ……誰だろう)
私はふと、それに気付く。
前方から誰かがやって来るのだ。
人数は四人。
その全員が、黒いジャンパーコートにキャスケットを目深に被った格好をしている。
なんと言おうか――いかにも「俺達犯罪者です」と言わんばかりの姿だった。
(なんか、あの人達イカツイんですだけど……)
見るからにヤバそうなので、自然と身構えてしまう。
しかし、他の面々は話しに夢中で、彼等の怪しさに気付いていないらしい。
シェリーに至っては、相変わらず後ろ向きで私の前を歩きながら話しかけてくるので、彼等の存在すら気付いていないだろう。
男達は、周りの景色を見渡しながら、なんでもない風を装って歩いている――そんな感じがしてならない。
そうしている間にも、黒ずくめの男達は一定の速度で近づいてくる。
彼我の距離は徐々に詰まり、三〇メートル――二〇メートル――一〇メートル。
遂に、私達のすぐ横をすり抜けるように通り過ぎる。
(あれ、私の勘違い?)
男達は、別に手を出してこない。
どう見ても怪しい感じしかしないのだが――杞憂だった。
私はほっと胸をなで下ろしかけて――その瞬間だった。
ひゅぱっ!
空気が鳴る。
過ぎ去りかけていた最後の男が、すれ違い様に大きく腕を撓らせたのだ。
「! 危ないッ!」
反射的に身体が動いた。
楽しそうに話しているシェリーの身体を、力任せに引きよせる。
その後ろで、銀光が一瞬、鋭く翻った。
その切っ先はシェリーの美しい髪を掠め、虚空を斬る。
「――ちっ!」
男は舌打ちをして、腕を引っ込める。
その手には、小さなバタフライナイフが握られていた。
「何事だ!」
異常事態に気付いたレイシアが、すぐさま臨戦態勢に入り、私の横に並び立つ。
私は、襲われたシェリーを背後に隠しつつ、男達から数メートルの距離を置いて油断なく見据えた。
「あなた達、何者ですか? 遠目から、何か異様な感じはしてましたが……まさか、年端もいかない少女にいきなり斬りかかるなんて」
「ほぅ? 意外と勘が鋭いじゃねぇか、お嬢ちゃん」
ナイフを持った男が、髭だらけの口元をにやりと歪める。
「だが、ナンセンスだな。犯罪者に何者などと問うとは」
「ふん。貴様等の正体など、聞かずともわかるわ」
レイシアが、間髪入れずに言い返す。
私は驚いて、「わかるんですか?」と聞いてしまった。
「ああ。まず、帝国軍の刺客ではない。〈ウリーサ〉の魔術師に、こんな不抜けた顔の奴等はいないからな。とすると、シェリーを狙ったところから見て、おおよそ宝石に目が眩んだ盗賊だろう」
「ふっ。ご名答だ」
今度は、別の男が答えた。
目元に隈のある、顔色が悪い痩せ男だ。
「俺達はこの辺じゃ名を知られた盗賊団さ! 泣く子も黙る、〈スゴグ・マドゥケ盗賊団〉ご一行様だぁ!」
「何だって? すごくマヌケ盗賊団?」
「やかましぃッ! 〈ス ゴ グ ・ マ ド ゥ ケ 盗 賊 団〉だッ!」
男は、カッと目を見開く。
レイシアの聞き間違いに、危うく吹き出してしまうところだった。
しかし、この盗賊団――犯罪者に何者かを問うとはナンセンスだ(キリッ)とか言っておきながら、正体をバラすとは。
本当に、〈すごくマヌケ盗賊団〉なのかもしれない。




