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第八章40 シェリーの持論

 ――〈リラスト帝国〉へ向かうと言っても、前セキホウ鉱山へ向かうために通った分岐点まで戻らなければならない。

 進路を戻すには、まだ半日近く歩き続けなければならないのだ。


 とはいえ――その道のりは、まったく退屈じゃなかった。


 なにせ人数が二人も増えているから、会話が止めどなく続いているのだ。

 まるで、転校生がやって来た日の休み時間のようである。


「フィリアはどんな食べ物が好きなのだ?」

「フルーツタルト! クリームの甘さと果物の酸っぱさのはーもにーが、もう最っ高!」

「確かにフルーツタルトは美味しいのだ! ボクも甘い物は大好物なのだ! フィリアとは気が合いそうなのだ」


 シェリーは、中でもフィリアと真っ先に打ち解けたようだ。

 まあ、似たもの同士だしかれ合うものがあるのかもしれない。


 そして、ヘレドはというと――


「本当に、主様がご迷惑をお掛けします。今回、同行を許可してくださったこと、重ねがさねお礼を申し上げます」


 余程恐縮よほどきょうしゅくなのか、早歩きで前を行くレイシアにくっついて、ぺこぺこと頭を下げている。


 しかしレイシアは鬱陶うっとうしそうに顔をしかめ、「ああ~もう。その話はわかったから、するな! しつこいぞ」と、邪険じゃけんに扱うばかりだった。


 真面目なのも、ここまで来ると面倒くさい奴になる。


 案外、場に馴染めるのは、圧倒的にシェリーの方なのかもしれない。


 そんなことを考えていると、そのシェリーが私の方に駆け寄ってきた。


「カース、カース!」


 私の目の前でぴょんぴょんと飛び跳ねながら後ろ向きに歩くという、地味な離れ業を披露ひろうするシェリーに、「なに?」と問い返す。


「カースの好きな食べ物はなんなのだ?」

「好きな食べものね……」


 私は少しの間思案にふけるが……これと言って思い浮かばない。

 というのも、こっちに来てからの食事に、マズいと思うものはあまりなく、どれも美味しかったからだ。

 

 思えば私達はずっと王宮にいたわけで、そこそこ高価な料理を口にしていたのだろうから、マズい食べ物などあるはずもない。


「特に、これが一番好き! っていうのは、今のところないかな」

「え゛」


 正直に述べると、シェリーは飛び跳ねるのをやめ、ビー玉みたいにまん丸な目を、驚いたように大きくする。


「ほ、ほんとに好きな食べ物ないのだ?」

「好きな食べ物はたくさんあるよ。でも、一番は決められないかな」

「あー……」


 シェリーは何やら目を細め、私の肩にぽんと手を置く。

 それから、まるであわれむかのように小声でささやいた。


「それは現実でも浮気しちゃうタイプなのだ」

「へ? 何その情報」


 あまりの急展開に、今度は私の方が目を丸くする。


「一つのことに執心しゅうしんできないタイプは、危ないのだ。一番好きな食べ物を決められない人は、特定の人を愛せない傾向にあるのだ」

「いやだからソレ、何の情報? 根拠とかは?」

「根拠なんてないのだ! あくまでボクの独断と偏見的な理論にもとづいているのだ!」

「え、えぇ……」


 根拠ないんかい。

 

 最初こそそう思ったが。


 そういえば私、この世界に来て生まれた最初の目的って、ハーレム&百合だよね。

 つまり、半分浮気みたいなことであるわけで――あ、シェリーの言ったこと、ちょっと説得力あるかも。


 などと、内心で脂汗を垂らす私なのであった。


 と、そんな矢先。

 思いがけない事件が起きる。




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