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第八章38 出発。セキホウ鉱山を背に

 ――そんなこんなあって、結局その日の夜は殆ど眠れなかった。


 朝になり、ナルギスにお礼と別れを告げ、テント群を後にすることとなった。


 救世主であるレイシアや、国の象徴マドンナであるセルフィスに心酔しているナルギス以下モブの採掘員達は、なみだを流して別れをしんでいた。


 人気者も大変だなぁと、つくづく思う。

 

 そんなこんなで、セキホウ鉱山での宝石獲得ミッションを終え、元々の目的地である〈リラスト帝国〉へと進路を戻したのだが――セキホウ鉱山に向かう前とは違う点が一つあった。


 それというのも――


「で、なぜ貴様等も一緒に付いてくるんだ?」


 レイシアは、ややぶっきらぼうに言い捨て、後ろからちょこちょこ付いてくる二人をじろりと見た。


 言わずもがな、シェリーとヘレドの二人である。


「なぜって言われても……ボク達は元々、〈リラスト〉帝国から来てるのだ。目的地が一緒なら、別に一緒に行動したって構わないのだ」

「すいませんね。私は迷惑になるからと止めたのですが、主様がどうしてもと聞かなくて」

「うるさいのだ! 助手の分際ぶんざいで意見するななのだ!」


 ぷいっとふて腐れたように、ヘレドから顔をそむけるシェリー。

 どうやら、私達と行動することを、シェリーが独断で決めたらしい。


 ちなみに、一人称が私に戻っているのは、当然性別を女性に戻したからだ。

 セルフィスに加えて、シェリーの前でも男の姿が禁じられているとなると、これから先いろいろと行動が制限されてしまいそうだ。

 ――主に恋愛面で。


 せめて、どちらか一方の前でだけでも男の姿が解禁できるよう、できることをやるしかない。

 まあ、波瀾万丈はらんばんじょうな方が、異世界生活も楽しいというものだ。

 

 恋は常に試練をまとってやって来る。

 他でもない、前の世界で穴が空くほど熟読した「愛し合うカップルになるための教本」に書いてあったことだ。


「――それで、なぜそのあるじとやらは、余達と行動することを提案したんだ?」


 相変わらずジト目のまま、レイシアはシェリーに問いかけた。


「決まっているのだ! このウザメガネと二人きりで長い道のりを行くより、みんなで行く方が楽しいに決まっているのだっ!」


 シェリーは、腕を真っ直ぐ天に掲げて、力強く言ってみせた。


 なるほど。

 相手の迷惑をかんがみないタイプの陽キャらしい。


「……はぁ。貴様の言い分はわかった」


 レイシアはため息をつきつつ、私の方を向いた。


「カースはどう思う?」

「どうって……別にいいんじゃないですか? フィリアが一人増えると思えば、それで……」

「問題はそこだろうが……」


 レイシアは頭を押さえながら、かすれ声で言う。

 それから、びしぃッ! とフィリアを指さし、一気にまくし立てた。


「こいつが一人増えたら、もっと手に負えないだろう!? トラブルメーカーは一人で十分だ……ッ!」

「ちょっと! トラブルメーカーってなに!? フィリア別に事件起こさないけど!? そうだよね、おにい!?」

「え? あ、うん。そ、そうだね」

「……なんか目が泳いでるけど?」


 じー、と見つめてくるフィリアから距離をとって、「そ、そんなことはないよ!?」と答える。


 もちろん、そんなことは大ありだ。

 昨夜フィリアは、落盤を起こしたのが自分だと自覚していたが……この様子じゃ、そのことすら忘れているかもしれない。


「こほん。ま、まあとにかく」


 私は咳払いをして、強引に話を戻した。


「シェリーが行動を共にすることは、構わないです。彼女の言うように、にぎやかな方が楽しいですし」




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