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第八章37 修羅場。

 暗闇の中で――目が合う。


 た~っぷりと数秒間見つめ合ったあと、ジト目になったフィリアが問うてきた。


「えっとさ、おにい。一応確認のために聞くけど……何してるの?」

「何って……布団をはいでたから、かけ直そうと思って」

「それだけのために、なんでその状態になってるわけ?」

「……え?」


 私――いや、僕は自身の状態を今一度確認する。


 僕は今、寝ているフィリアの上に身体がある状態だ。

 顔と顔の距離はそこまで近くもないが――それでも、数秒見つめ合えば自然にドキドキしてしまう、絶妙な距離感だ。


 これじゃあ、まるで――


「――どう見ても、夜這よばいしてるようにしか見えないんだけど」


 僕がちらりと思ったことを、先にフィリアが言った。


 「朝飯前」は知らないのに「夜這い」なんて言葉は、どうして知ってるんだ……?

 そういった疑問も頭を過ぎったが、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。


「ひ、人聞きが悪いこと言わないでよ! 僕はただ、何の下心もない……こともないけど、とにかく変なコトするつもりじゃなかったから! 誤解だよ誤解!」

「やっぱり! 下心したごころあるんじゃんッ!」

「そ、そりゃこんなかわいい妹がいてドキッとしない方がどうかしてるよ! ていうか、それより声が大きい! みんな起きちゃうでしょ!?」


 口元に人差し指を当て、「静かに!」のジェスチャーをする僕。

 だが、時既に遅し。


「むにゃ……五月蠅うるさいぞフィリア。こんな夜中にどうし――」


 今度は、不機嫌そうに起き上がったレイシアと目が合った。


「……っ!」

「……あ」


 しばし、無言の時が流れた後、レイシアはただでさえ大きい目を更に見開いて、口をパクパクさせた。


「き、きき、き貴様!? 性別を変えて一体何をしている!? しかも、フィリアの上にのし掛かって!? さ、さては――ッ」


 顔を真っ赤にし、あわあわするレイシアの図。

 やばい。誤解がどんどん広がってる!

 なんとかしなくちゃッ!


「ち、違います! これはレイシアさんが想像してるようなことじゃなくて、その……ッ!」

「そ、そうか……わ、悪い。考えてみれば、貴様達は血を分けた兄弟だものな。日常的に身体を重ねていても、何らおかしなことではないな!」

「いや十分おかしな事ですよっ!? 日常的にあんなコトやそんなコトをしちゃってる兄弟なんて、普通じゃないですよ! テキトーに納得して、丸く収めた気にならないでください!!」


 必死で訴えかけるが、レイシアはぐるぐると目を回していて、まともに取り合ってくれそうもない。


「ど、どうすればいいんだ……ッ!?」


 もはや収拾が付かなくなりつつある事態に、たまらず頭を抱える。

 そんな僕へ、シェリーがトドメを刺す形となった。


「あーもう! みんなウルサイのだぁあああああああああッ!!」


 不倫ふりん発覚現場のような奇声が飛び交っている状況に怒り爆発。

 なにぶん真っ暗だから、狙いも付けずにぶん投げたであろうまくらが、運悪く僕の顔面にクリーンヒット。


「げぼふっ!?」


 その衝撃で、僕はあえなくひっくり返ってしまったのだった。


 ――そして。

 こんな大騒動の中で、唯一セルフィスだけが、「すー、すー」と静かな寝息を立てて、眠っていた。


 この喧噪けんそうの中で全く目覚めないのは、ある意味すごい才能だと思うよ。

 うん。





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