表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

250/304

第八章35 恋愛は事務所NG!?

「単刀直入に言うと、私にとって都合が悪いからです」


 ヘレドは未だに後ろを向いたまま、抑揚よくようのない口調で言った。


「都合が悪いんですか……」


 私は、ヘレドの言葉を反芻はんすうする。

 一体、どういう方向で都合が悪いのだろうか?


 すると、私の疑問を察したかのようにヘレドが答えた。


「まあ、側にモテる方がいると、いろいろと面倒なことになりそうですから」

「いやぁ……モテるなんて、そんなことないですけど。というか、ひょっとしてヘレドさん、シェリーのことが好きなんですか?」

「いえいえ、まさか」


 表情は見えなくとも、頬を微かに吊り上げるのがわかった。

 もっともそれが、図星ゆえの言い訳か、それとも本当に恋愛感情を抱いていないのか、定かでは無いが。


「ただ、主様あるじさまは、宝石加工に命を賭けておいでです。そこに、貴方のように、顔も性格もイケメンな人物が介在すると、彼女の集中が乱されてしまう。私は、彼女の宝石に対するひたむきな心を支え、守りたいのです」

「それって、結局シェリーのことが好きってことなのでは……?」

「ですから、そうではないと申し上げているではありませんか」


 苦笑しながら、ヘレドは答えた。


 結局、彼がシェリーに好意を寄せているのかわからなかったが、信頼と尊敬の念を抱いているのは確からしい。


 天才宝石加工職人の助手という形でシェリーの側にいる彼が言う意見としては、至極当然と言えた。


 もし仮にシェリーが私に好意を寄せてくれたとすると、宝石加工職人としての仕事に身が入らなくなる可能性があるのだ。


 恋は盲目もうもくなんて言葉もあるが、これは、“時に恋をすると、人は理性を失ってしまう”という意味である。

 そもそも、恋愛感情なんて、あらゆる感情の中で一番理性の効きにくいものだ。


 職人プロとしてのシェリーを維持するために、助手マネージャーがサポートするのは、決して可笑しな話じゃない。


 故に――


「わかりました。シェリーがしっかり職人としての仕事に集中できるよう、最善を尽くします」


 私は、意を決してそういった。


「ありがとうございます! どうかよろしくお願いします」


 ヘレドは初めてこちらを振り返り、満面の笑みで笑った。

 その笑顔のはしに、にじみ出る陰りの色が見えた――ような気がした。


 しかし、私にはそのわけを問い詰める精神的余裕はなかった。

 

「では、話は以上になりますので、失礼します」

「あ……は、はい」


 きびすを返して立ち去るヘレドを、ただ見つめることしかできなかった。

 やがて、ヘレドの姿が見えなくなると、私は思わず叫んでしまった。


「うっそぉおおおおおおおおおお~!」


 頭を抱え、その場にうずくまった。 

 甘い土の香りがすぐ側まで迫るが、混乱する気持ちを落ち着けるには、リラックス効果が足りなすぎる。


 なにせ――


「なんでぇ……あんな可愛い子と恋愛禁止!? 何その罰ゲーム!? 神様ぁ、頼むから嘘だと言って!!」


 この世界での目標の一つは、恋愛しまくることだ。

 なのに――シェリーというアイドルの恋愛プライベートは、ヘレドという事務所によって制限されてしまっている。


 ひかえめに言ってツラい。

 ツラすぎる。


 そんなこんなで、一人悶絶していた私だが――ふと気付いた。

 この話には、ある盲点もうてんがあるということに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ