第八章34 疑惑と困惑
あけましておめでとうございます!
2023年、一発目の更新です!
「すいません。こんなところまで呼び出してしまって」
ヘレドは、申し訳なさそうに眉根をひそめて言う。
二人きりで話があると言われ、私はテントから少し離れた場所に案内されたのだ。
当然周りに明かりなどはない。
音の無い風が駆け抜けた。
足下に生えている草やら、森の木々だけがかさかさと鳴っているのは、どことなく不気味だ。
「ここで話をするんですか?」
「ええ。どうしても、カースさんと二人きりで話がしたかったもので」
「告白なら、謹んでお断りしますよ?」
「そうですか、残念。告白する前にフラれてしまいました」
「え!?」
冗談のつもりで言ったのに、まさか本当に告白する気だったの?
驚いて呆気にとられていると、ヘレドは可笑しそうにクスリと笑って、言った。
「なぁんて。冗談ですよ」
「お、脅かさないでくださいよ」
私はほっと胸をなで下ろす。
冗談に冗談で返されてしまった。
どうやら、口の巧さは相手の方が一枚上手のようだ。
「それじゃあ、一体何の話を……?」
「それはですね……」
ヘレドは、不意に視線を外して身体を後ろへ向けた。
私からは、彼の表情がまったく窺えない形となる。
私から表情を隠したまま、ヘレドはゆっくりと口を開いた。
「頼みがあるのです。私の主様……シェリー様の前で、決して男性の姿にならないでください」
「!?」
私は、思わず息を飲んだ。
ざわざわと。
今までまったく音の無かったはずの風が、急に耳元で騒ぎ立てる。
「なぜ……私が男の身体になれることを知っているんです?」
開口一番、率直な疑問をぶつけた。
なぜシェリーに男性の姿を見せてはいけないのか。
そういう疑問の前に、まずはそっちだ。
私はまだ、ヘレドに女の姿しか見せていない。
それなのに私の身体のことを知っているのは、明らかに変だ。
「そんなことは、どうだっていいのです」
しかしヘレドは、話を強引に逸らした。
「いや、どうだっていいって……そんなことないんですけど」
「仕方ありませんね……フィリアさんが貴方のことを「おにい」と言っていましたし、貴方が本来は男性なんじゃないかという想像は、容易につきますよ」
ヘレドは、少し気怠げに早口で答える。
「そ、そうですか」
私は、曖昧に頷くことしかできなかった。
いかんせん、どうにも胡散臭いのだ。
フィリアが私のことを「おにい」と言ったという情報だけで、私が性別を変えられる人間であるなどと見抜くのは、難しいはず。
そもそも、性別を自由自在に変えられる人間だなんて、初見で看破できるはずもない。
それこそ、ナルギスのように“本当は男で女装してるだけ”と捉える方が自然な考え方である。
故にヘレドへの不信は募るばかりだが、どうせこの様子じゃ問い詰めても答えてくれないだろう。
ここは一旦聞き流すより他はない。
私は、話のコマを次に進めた。
「それで、シェリーに男の姿を見せちゃいけないっていうのは、どうしてなんです?」




