第八章33 ヘレドの誘い
「選んでおいた宝石です。こちらでいかがですか?」
ナルギスは、革袋をレイシアに手渡す。
それを受け取ったレイシアは、袋の口に括った紐を解いて、中を覗いた。
何度か、中に入っている宝石をジャラジャラとかき回して確認すると、納得がいったようにこくりと頷いた。
「ああ、ばっちりだ。助かった」
「いえいえ、レイシア様の頼みとあらば、なんでも喜んで致しますので」
「そうか。すまんな」
レイシアははにかんで、宝石の入った革袋を左腰に吊した。
「では、そろそろ戻るとしましょう。もう夜も深くなりましたからね」
ナルギスの先導で、私達は元のテント群へ戻る運びとなった。
途中、また何かトラブルに巻き込まれるんじゃないか……?
そんな不安にかられもしたが、思いの外すんなりと、採掘場の出口にたどり着いた。
「今宵は、こちらの方で空いているテントが二つございますので、そちらをお使いください」
元いたテントまで戻ってくると、ナルギスは斜向かいにある二つのテントを指した。
ここのテントより一回り小さいが、寝るだけであれば十分な広さがありそうだ。
「六人を二組に分けると……三人で一つのテントを使う形か?」
「それでも構いませんが、一応男女で寝所を分ける意味合いで申し上げたのです。万が一、あんなことやそんなことが起きるのは、レイシア様も嫌でしょう?」
「それはまあ、そうだが……」
レイシアは、ちらりと私の方を流し見る。
私と目が合ったのが気まずかったのか、一瞬頬を赤らめて、慌てたように視線を逸らした。
私の思い上がりかもしれないけど……なんだか満更でもなさそうだ。
「もっとも、今この場に、女装疑惑のある人を除いて、男性は一人しかいませんから……女性陣のテントが少々狭くなってしまうかもしれませんがね」
そう言って、ナルギスはちらりとこちらを見る。
まだ私に女装癖があることを疑っているようだ。
本気で勘弁して欲しい。
私はただ、男にも女にもなれるという、女装や男装の完全上位互換であるだけだ。
それに、望んでこの身体になったわけじゃない。
つくづく、便利だけど不便な身体だ。
私は、ため息をつくことしかできないのであった。
△▼△▼△▼
結局、男女で別れて寝ることになった。
といっても、男女比が1:5とか、「吹奏楽部か!?」とツッコミを入れたくなってしまうような状況だったから、私はある決意をする。
当然、私も性別☆チェンジして男になり、ヘレドと二人で就寝するというものだ。
むろん本音は、「美少女に囲まれて寝たい!」というものだが、なにせ五人で一つのテントに寝なければならないのだ。
どう考えても狭い。
「あのさ、私――」
故に、私はそれを進言しようとして手を挙げる。
しかし。
「カースさん、少し良いですか?」
そこへ、何故かヘレドが割り込んできた。
「……なんです?」
「二人きりで少し話があるんですが……構いませんか?」
「は、はぁ」
このタイミングで話を振ってくるとは、一体どういうつもりなのだろう。
訝しみながら、私は首を縦に振るのだった。




