第八章31 信頼を寄せて
「わ、わかりました! でも……魔術を使うんですか?」
「それ以外何がある?」
毅然としてレイシアが答える。
「えっと……無いですけど」
「だろう?」
「けど、土壁を壊せる威力の魔術なんて使ったら、またさっきみたいに落盤事故が起きますよ?」
私は、すかさず忠告した。
私だって、最初の落盤のとき、風の魔術を使って脱出したかったが……リスクが大きい故に断念したのだ。
なのになぜ、事ここに至り、レイシアは魔術を使うなどと言ったのか?
トンネル全体に大きな衝撃を付加することになるのは、彼女ほどの人物ならわかっているはずなのに。
しかし――
「そうならないために、頭を使うんだ」
レイシアは、淡々と言い捨て、懐から翡翠を四つ取り出した。
「王国を出るときに持ってきた宝石……これで最後だが。これを使う」
「翡翠……草の魔術で一体何を?」
それには答えず、レイシアは事務的に問うてきた。
「貴様、翠玉は持っているな?」
「は、はい! 翠玉なら、持ってます」
私は、急いで懐から目当ての宝石を取り出す。
仕方の無いことなのだが、私の大きな胸が邪魔で、少し取り出しにくい。
……まあ、そんなことで文句を言ったら、フィリアに怒られそうだからやめておく。
「だ、出しました」
「よし」
レイシアは小さく頷いて、淡々と指示を出した。
「余が合図したら、土壁のど真ん中へ向けて突風を放て。手加減はしなくていい。土壁が壊れる十分な威力で、打ち出すのだ」
「え?……でも、そんな威力で魔術を放ったら」
「案ずるな。余を信じろ」
「!」
そうだった。
何も躊躇う必要なんてない。
これは、レイシアが提案した脱出方法なのだ。
「わかりました。信じます!」
「ふっ、それでいい」
レイシアは不敵に笑い、私は魔術の狙いを土壁の中心にあわせる。
そして――
「今だ放て!」
レイシアの合図した瞬間、私は風の魔術を起動した。
「《珠玉法―翠玉・暴風》ッ!」
次の瞬間。
巨大な暴風の槍が、一直線に土壁めがけて肉薄する。
轟々と唸りを上げて、突風は土壁に着弾。
いとも容易く粉砕する。
しかし、その衝撃で再びトンネル全体が歪むように揺れた。
天井から、パラパラと小石や土の塊が落ちてくる。
まずい! 落盤が起こる!
そう覚悟した瞬間、レイシアの凜とした声が響き渡った。
「《珠玉法―翡翠・蔦葛―四重奏》ッ!!」
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