第八章29 涙か、宝石か
ずごごごご……
腹の底を振るわすような、低い轟音が響き渡る。
その刹那。
フィリアとレイシア、セルフィスが立っているすぐ後ろの天井が、ガラガラと崩れた。
大量に落下した土で、土埃が舞い上がり、視界を一気に埋め尽くす。
といっても、私やシェリーは、周囲に張っている魔術障壁があるため、何らダメージはないのだが――フィリア達は違った。
「げほげほっ! うぇ~目が痛いぃ」
「ば、馬鹿者! こんな地中深くで、剣をドリルのように回転させ、力任せに突っ込むなんていう、馬鹿げた剣技を使うバカが何処にいる!」
「し、仕方ないじゃん! これしか思い付かなかったんだもん! へぇ~くしょんっ!」
土煙で曇った視界の先から、咳き込みながら口論するフィリアとレイシアの声が聞こえる。
「あらまぁ……なかなか派手にやらかしてるのだ」
シェリーも、その様子を見ながら苦笑いしている。
他人事のように言ってるけど、貴方も似たようなものだからね?
やがて、土煙が収まり、視界が晴れてきた。
するとそこには、当然のごとく、真っ茶色に煤けた三人が立っていた。
「あは、あははは! 流石に死ぬかと思ったぁ」
「相変わらず呑気なヤツだな、貴様は」
「えへへ、そう?」
「全くもって、褒めてないわ」
何をやらかしても動じない鋼メンタルを見せつけるフィリアと、それに呆れて頭を抱えるレイシアの図。
「ごめんね~セルフィス。ちゃんと生きてる~?」
「へ、平気です。……ちょっと、口の中がじゃりじゃりしますけど」
「うん! それくらいなら大丈夫だね!」
服についた土をパンパンと払いながら、憎たらしいほどの笑顔で応じるフィリア。
まったく。
誰のせいでこうなったのやら――
やれやれ、と肩をすくめていると、フィリアがこちらへ駆けてきた。
「おにい、怪我はない?」
「うん。魔術障壁を張ってたし、平気だよ」
言いながら、私は側面の障壁だけを解除した。
なぜ、上方向の障壁は張ったままなのかというと、依然として落ちてきた天井を支えているからである。
「おにい~!」
障壁を解除した瞬間、待ちわびたとばかりに、フィリアが胸に飛び込んできた。
「もう! どうしてはぐれたりしたの、おにい! フィリア、おにいが迷子になって、すんごく心配だったんだよ? 焦ったんだよっ! 」
「いや、それはお前のせ……ぃ――」
いつも通り、誰かさんが暴走したせいで巻き添えになったことを、伝えようとしたが――すぐに言葉を引っ込めた。
私の胸の谷間に顔を埋めるフィリアの目尻が――すぐ近くに埋まっているダイヤモンドと、同じ色を放っていたから。
「――ごめん、フィリア。もう離れない」
私は、フィリアの頭を撫でながら、静かに言った。
小刻みに震える身体を、腕で優しく包む。
そして、今この瞬間だけ。
私は、自分がフィリアの本当の兄で無いことに対する後ろめたさを、忘れていた。
――しばらく彼女の体温を感じていた後、落ち着いたのを察して、ゆっくりと身体を引き離す。
そのタイミングを見計らってか、レイシアが質問をぶつけてきた。




