第八章28 ヒーロー登場か否か
「カースの匂いだと? あやつは別に体臭などせんぞ?」
「そうですよ。たしかに、近くへ寄れば安心する、温もりに似た匂いならありますけど――」
「ああ、まあ……否定しない」
続けて、レイシアとセルフィスの会話が聞こえた。
ていうか、私の身体はアロマエッセンスか!
近くに寄れば安心感と温もりをお約束って――新商品のキャッチコピーじゃあるまいし。
「誰なのだ? この人達は」
不意に、シェリーが服の袖をくいくいと引っ張ってきた。
「え? ああ、私の仲間……かな?」
「そうなのだ? なんか凄く、個性的な仲間なのだ!」
「あーうん、それはそう」
「貴方が言えないけどね」とは、心の中でだけ突っ込んでおこう。
「本当におにいの匂いがこっちからするんだよ!」
フィリアがジタバタと暴れる音が聞こえた。
なんだろう――相変わらず“兄を見つけるセンサー”の感度が凄まじいことには、未だに戦慄を覚える。
けれど、これはまあ、ナイスプレーと言って差し支えないだろう。
「フィリア~聞こえる?」
私は、口元に手を当ててメガホンのような形をつくり、壁の向こうへ問いかけた。
「あ! おにいだ! 聞こえるよ~!」
フィリアは嬉々として返答をする。
その一方で――
「な、なんだと……ッ!?」
「本当にカースさんがいたなんて……恐ろしい兄弟愛ですね」
レイシアとセルフィスは、少なからず驚いていたようだ。
「おにい~! この壁の向こうにいるの?」
「うん。ちょっとした事故で、天井が丸ごと落ちてきちゃって、今生き埋めにされてるんだよ」
「い、生き埋めって! だ、だだ、大丈夫なんですか!?」
セルフィスの声が大きくなった。
「一応、今のところは大丈夫です」
「よ、良かったぁ」
土壁の向こうで、ほっと胸をなで下ろすセルフィスを想起する。
「とにかく、ここから脱出したいんだけど、手伝ってくれない?」
反対側から救援が来たことで、状況が好転した。
両側から掘り進めれば、安全に、かつ早くここを脱出する穴ができる。
しかし――それを好機と認識するには、早計すぎた。
理由は単純
私の仲間はあまりにも個性的すぎるからだ。
「それならフィリアにお任せ!」
フィリアは張り切って、そう言うと「おいっち、にー、さん、し」と何やら体操の掛け声を出し始めた。
なんだろう――とてつもなく嫌な予感がする。
「あのぉ、フィリア? 一体何するつもり?」
「いいから、いいから。危ないから、おにいは少しでも奥に下がってて?」
「あ、危ない……? ちょ、ちょっと待って! 落ち着いてフィリアッ!」
そんな私の静止も空しく。
「いっくよぉ~! ミラクル回転☆フィリアスペシャルぅううう!」
なんか、凄くダサい必殺技を名乗って。
次の瞬間、ズガガガ……という派手な音が響き渡る。
地面が揺れるほどの衝撃。
マズイ。どう考えても二次災害が起こる。
そして、目の前の土壁にビキビキと亀裂が入り、あっという間に土煙をあげて壁が崩れ去った。
「やっほ! おにい」
ぽっかりと空いた穴から顔を覗かせたフィリアが、笑顔でサムズアップして――
その瞬間、事件が起きた。




