第八章27 障壁の外にご執心
「何するのだ! その宝石は貴重なものなのだ!! 軽々しく魔術の触媒に使っていいものではないのだ!!」
「い、いや……そうかもしれないけど……この場合、仕方ないでしょ。魔術を使わなかったら私達、生き埋めになってたよ?」
「それはそうかも知れないけど……ぐむむむ」
シェリーは、悔しげに口を噤んだ。
一応、言い分としてはこっちの方が正しいはずだ。
たぶん。きっと……おそらく。
「とにかく、ごめんね。悪気があってやったわけじゃないから」
「……わ、わかっているのだ」
まだふて腐れているようだったが――次の瞬間、「まあ、仕方ないのだ」と諦めたように言う。
それから、けろっとした表情を私の方に向けた。
「今回のことは水に流すのだ!」
「あ、ありがと――」
「そのかわり、もう少し宝石の採掘を手伝っていって欲しいのだ!」
「……はい?」
私は耳を疑った。
何せ――
「あ、あのぉ……現状理解してる?」
シェリーに、周囲を見るよう促す。
展開した魔術障壁の外側は、四方八方が落ちてきた土砂や瓦礫で覆われている。
つまり――
「あー……今ボク達、結構ピンチなのだ?」
「ようやく気付いたのね……」
私は、はぁ~とため息をついた。
鉱石採集どころではない。
一時的に切り取ったこの生存空間が、私達の吐き出す二酸化炭素で汚染される前に、なんとか地上まで抜け出さねばならないのだ。
「事態は一刻を争う。みんなで力を合わせて、このピンチを抜けだそ――」
「うわぁ! このサファイア、凄く質がいいのだ! あ、あそこのエメラルドも!」
「あのぉ……もしもーし、シェリーさん? 私の言うこと、聞く気あります?」
「あるのだあるのだ、大ありなのだ!」
そう答えつつも、彼女は障壁に顔面を押しつけ、外の土に埋まっている宝石に無我夢中である。
駄目だ、この人危機感全くない。
「もういいや、私達だけでなんとか案を出しません?」
「そうしましょう。本当に、手のかかる主で申しわけありません……」
「え? いやぁ……別に気にしてませんから」
頭を下げてくるヘレドに、そう返す。
手のかかる奴なら、身内に一人いるのだ。
ことあるごとに迷惑をかけてくる、生意気な金髪娘の顔を思い出す。
「とにかく、まずはここを出ないことにはどうしようもありませんね」
「はい。ただ、随分派手に崩れたようですから……脱出はかなり困難を極めるかと」
「そうですよねぇ」
冷静に状況を分析するヘレドに、頷いて返す。
「時間も限られてますし、手っ取り早く風の魔術で土砂を吹き飛ばしたいところですけど……」
「そんなことをしたら、衝撃でまた天井が崩れてしまいますよ」
「で、ですよね」
かといって、ちまちまと壁を削っていたら、空間内の酸素が無くなって、ゲームオーバーだ。
一体どうしたらいいんだ……
途方に暮れる私達。
しかし――そんな絶体絶命のピンチの中、颯爽とヒーローがやって来るのが、お約束展開というものである。
「こっち! この土壁の向こうから、おにいの匂いがする!」
土砂で埋まった視界の向こう側から、底抜けに明るい声が聞こえた。
この声は、まさか――!




