表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

242/304

第八章27 障壁の外にご執心

「何するのだ! その宝石は貴重なものなのだ!! 軽々しく魔術の触媒に使っていいものではないのだ!!」

「い、いや……そうかもしれないけど……この場合、仕方ないでしょ。魔術を使わなかったら私達、生き埋めになってたよ?」

「それはそうかも知れないけど……ぐむむむ」


 シェリーは、悔しげに口をつぐんだ。


 一応、言い分としてはこっちの方が正しいはずだ。

 たぶん。きっと……おそらく。


「とにかく、ごめんね。悪気があってやったわけじゃないから」

「……わ、わかっているのだ」


 まだふて腐れているようだったが――次の瞬間、「まあ、仕方ないのだ」と諦めたように言う。

 それから、けろっとした表情を私の方に向けた。


「今回のことは水に流すのだ!」

「あ、ありがと――」

「そのかわり、もう少し宝石の採掘を手伝っていって欲しいのだ!」

「……はい?」


 私は耳を疑った。

 何せ――


「あ、あのぉ……現状理解してる?」


 シェリーに、周囲を見るよううながす。

 展開した魔術障壁の外側は、四方八方が落ちてきた土砂どしゃ瓦礫がれきおおわれている。


 つまり――


「あー……今ボク達、結構ピンチなのだ?」

「ようやく気付いたのね……」


 私は、はぁ~とため息をついた。


 鉱石採集どころではない。

 一時的に切り取ったこの生存空間が、私達の吐き出す二酸化炭素で汚染おせんされる前に、なんとか地上まで抜け出さねばならないのだ。


「事態は一刻いっこくを争う。みんなで力を合わせて、このピンチを抜けだそ――」

「うわぁ! このサファイア、凄く質がいいのだ! あ、あそこのエメラルドも!」

「あのぉ……もしもーし、シェリーさん? 私の言うこと、聞く気あります?」

「あるのだあるのだ、大ありなのだ!」


 そう答えつつも、彼女は障壁に顔面を押しつけ、外の土に埋まっている宝石に無我夢中むがむちゅうである。


 駄目だ、この人危機感全くない。


「もういいや、私達だけでなんとか案を出しません?」

「そうしましょう。本当に、手のかかるあるじで申しわけありません……」

「え? いやぁ……別に気にしてませんから」


 頭を下げてくるヘレドに、そう返す。


 手のかかる奴なら、身内に一人いるのだ。

 ことあるごとに迷惑をかけてくる、生意気な金髪娘の顔を思い出す。


「とにかく、まずはここを出ないことにはどうしようもありませんね」

「はい。ただ、随分ずいぶん派手に崩れたようですから……脱出はかなり困難をきわめるかと」

「そうですよねぇ」


 冷静に状況を分析ぶんせきするヘレドに、頷いて返す。


「時間も限られてますし、手っ取り早く風の魔術で土砂を吹き飛ばしたいところですけど……」

「そんなことをしたら、衝撃でまた天井が崩れてしまいますよ」

「で、ですよね」


 かといって、ちまちまと壁をけずっていたら、空間内の酸素が無くなって、ゲームオーバーだ。


 一体どうしたらいいんだ……


 途方とほうに暮れる私達。


 しかし――そんな絶体絶命のピンチの中、颯爽さっそうとヒーローがやって来るのが、お約束展開というものである。


「こっち! この土壁の向こうから、おにいのにおいがする!」


 土砂で埋まった視界の向こう側から、底抜けに明るい声が聞こえた。

 この声は、まさか――!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ