第八章26 落盤事故にはご注意を!?
「何をバカなこと言ってるのだ? 〈リラスト帝国〉からここまで、かなり遠いのだ。今ここで採れるだけ採っておかないと、もったいないのだ!」
「それは、確かにそうなのですが……」
ヘレドは、困ったように頭をかく。
なるほど。
やはり、あくまでこの場で掘る気のようだ。
ヘレドもいろいろと苦労人だと思う。
「関係ないのだ!」
だが、そんなヘレドの言葉を一笑に付すと、シェリーは再び採掘を始めた。
しかし――そのときだった。
ゴゴゴゴ……と。
低い音を立てて、地鳴りが発生したのだ。
「な、なんなのだ……?」
流石に、狼狽えるシェリー。
「これは、まさか……恐れていたことが……ッ!」
青ざめるヘレドを見て、私も事態の重さに気付いた。
落盤が――起きる。
それを察知した瞬間、バラバラと天井が崩れ、土や石が落ち始めてきた。
このままでは、生き埋めになる!
「貸してッ!」
次の瞬間、私の身体は自然にシェリーの持つダイヤモンドを掴んでいた。
「な、何するのだ!?」
彼女の問いには答えず、私はダイヤモンドを掲げ、矢継ぎ早に叫んだ。
「《珠玉法―金剛石・障壁》ッ!!」
刹那、天井に無数の亀裂が入り、音を立てて崩れてくる。
「間に合って!!」
魔力を全開にし、頭上に六角形の障壁を展開。
土の大波が私達を呑み込むギリギリで、魔術障壁の起動に成功した。
(ふぅ……あ、危なかった)
障壁によって四角く切り取られた空間で、私はほっと安堵する。
周りを見れば、障壁の外は上も横も土に埋まってしまっている。
これは――脱出するのも骨が折れそうだ。
「助かりました、カースさん」
ふと、私の元へヘレドが歩いてきた。
「い、いえ。なんとか魔術の起動が間に合って良かったです」
はにかんで、シェリーの方を見る。
――腰が抜けたのだろうか?
地面にぺたんと座り込んで、わなわなと震えていた。
「こ、怖かったの……? 怖かったよね」
私は彼女の方に近づいて、そっと問いかける。
しかし、彼女はただ、俯いて肩を振るわすだけだ。
余程怖かったと見える。
私は思わず、彼女の肩にそっと手を乗せた。
すると――彼女がぼそりと言葉を発した。
「こ……」
「こ?」
「この、バカァアアアアアアアアアアアアッ!!」
「えぇええええッ!?」
急に大きな声で叫んだので、今度は私の方が腰を抜かしてしまった。




