第八章25 宝石の豆知識?
「本当に、この石の魅力がわかっているのだ?」
シェリーは、訝しむかのような表情を向けてくる。
秒で、なんもわかってないのがバレてしまった。
どうやら私は、隠し事をするのが苦手な質らしい。
「えっと……ごめん。専門用語が多すぎて、何言ってるのかさっぱり」
「やっぱりなのだ。そう顔に書いてあったのだ」
シェリーは小さく嘆息して、意気揚々と説明を始めた。
「まず初歩的なことを聞くけど、ダイヤと聞いて想像する色は何なのだ?」
「えー、白? それとも水色?」
「ぶっぶー! ぜんっぜん違うのだ!」
首がちぎれるんじゃ無いかと心配になる速度で、首を左右に振るシェリー。
いちいちオーバーリアクションだ。
「よく聞くのだ。白に見えるダイヤモンドは、鉱石の質が低いのだ。宝石というものは、原石の透明度が高ければ高いほど、質が良いのだ。この場合、原石の透明度が高い順に、ジェムクオリティ、ジュエリークオリティ、アクセサリークオリティという三つの段階に分割されるのだ!」
「は、はぁ……」
迫真で説明されても、やっぱりよくわからない。
とりあえず、透明度が高ければ高いほど、品質がいいと認識してればいいのだろうか?
内心で小首を傾げる私の前に、シェリーは先程掘り出したダイヤを見せてきた。
「よ~く見るのだ。どんな風に見えるのだ?」
私は、差し出された宝石と彼女の表情を交互に見ながら、答えた。
「えっと――無色?」
「誰が無職なのだ! こう見えてもボクは偉大な職人なのだぁ!!」
シェリーは急に顔を真っ赤にして怒り出した。
なんか、盛大に勘違いしてるし。
このアホさ加減は、フィリアレベルである。
「ご、誤解だって! 無色って透明って意味の方で、職が無いって言ったわけじゃないの!」
「そ、そうなのだ……? な、ならいいのだ」
シェリーは咳払いをして、話を戻した。
「その通り、これは透明なのだ。こういうダイヤモンドは、ソーヤブルなんて言われたりするのだ」
「へ、へぇ……ちなみにどういう意味なの?」
「……あー! もう一つくらい宝石を採って帰らなきゃなのだ! ダイヤが今の流行とはいえ、ダイヤだけじゃ物足りないのだ!」
(今、露骨に話逸らしたよね……?)
私は、思わず苦笑いをしてしまった。
隠し事が下手なのは、私だけじゃないらしい。
「ほ、ほら! カースも手伝うのだ!」
慌てたようにまくし立てるシェリー。
ここは、話に乗ってあげるとしよう。
そう思ったのだが、それに待ったをかける者がいた。
「お、お待ちください主様。それと、カースさん」
ウザメガネこと、ヘレドだ。
彼はシェリーの側へ寄ると、警告を発した。
「先程から何度も申し上げております。これ以上この場所を集中的に掘るのはおやめください。現場監督から、この辺りは地盤が緩いと聞かされています故、いつ落盤が発生するか……」
「ま、マジですか……」
私は、一気に青ざめた。
マズイ。絶対にこれ以上掘ったらマズイ。
しかし――シェリーは、そんなこと微塵も危惧していないようだった。




