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第八章24 シェリーとヘレド

 ――何というか、意外だった。

 てっきり、融通ゆうずうの効かない頑固者と思い込んでいたけれど、見た感じフレンドリーだ。


 むしろ、細かいこととか、気にしなさそうである。


「道に迷ったなら、見学していくといいのだ!」


 シェリーはそう言って、くるりとターンすると、再び掘削くっさくを始めた。


 見ると、壁に半分埋まっている鉱石を、傷つけないよう慎重に掘り出している。

 素人目しろうとめにもわかる、卓越した技量だ。

 もっとも、宝石加工職人という職業上、手先が器用だということは想像にかたくないが。


「あの……話聞いたんですけど、シェリーさんて宝石加工職人なんですよね?」

「よ、よく知っているのだ。ボクのうわさあずかり知らぬところまで広がってて、とっても鼻が高いのだ!」


 シェリーは、人差し指で鼻の下をこする。


「わざわざ遠くの鉱山まで来て、自分で加工する宝石を選定せんていしてるんですか?」

「そうなのだ。自分の目で見たものが、真実なのだ」

「な、なんか深いですね……」


 そう答えると、何が気にさわったのか。

 何やら頬を膨らませ、無言でにらんできた。


「な、なんです……? 私何かマズいこと言いました?」

「言ってないのだ。でも、その口調は堅苦かたくるしいのだ」

「口調?」

「そうなのだ。タメ口でいいのだ」

「わ、わかった」


 私は小さく頷いて返す。

 しかし、すぐあることに気付いた。


「あ、でも……ヘレドさんは、ずっと敬語だけど」

「当然なのだ。ウザメガネはボクの助手なのだ。軽々しくタメ口で話すなんて、もってのほかなのだ」

「う、ウザメガネって……」


 私は苦笑いを禁じ得ない。

 あだな、どう考えても酷すぎる。


 思わず、「それでいいの?」という視線をヘレドの方に向けてしまった。

 それに気付いたヘレドは、微笑びしょうを浮かべて、小声で告げてきた。

 

「主様との関係は、この距離が丁度良いので気にしてません。むしろ、職が無くて悲嘆ひたんに暮れていたところ、彼女に助手という形でやとっていただいたことには、感謝しているのです」

「そ、そうなんですか」


 見たところ、シェリーに対してマイナスの感情を抱いているわけではなさそうだ。

 あくまで、「雇い主」と「助手」という、一つ壁でへだたれた関係で落ち着いているようだ。


 月と地球が常にお互いに影響を及ぼし合いながら、常に一定の距離を保っているのと同じ。


 案外、こういう関係が一番長続きするのかもしれない。


「う~ん、もう少しで掘れそうなのだ」

「何が掘り当てられそうなの?」


 私は、ずいっと身を乗り出して彼女の手元に顔を近づける。


「ダイヤモンドなのだ。最近は、数ある宝石の中でもダイヤの需要が高まっているのだ。だからボクも、その流れにあやかってダイヤを多く採りたいのだ。ブームには、乗らなきゃなのだぁ!」


 最後の「なのだぁ!」と同時に、手にしたハンマーを勢いよく上へ突き上げる。


 無邪気むじゃきで、性格にムラッ気のあるところなんかは、年相応としそうおうというべきか。

 というか――フィリアに似ていると言うべきだろうか。


 そんなことを考えてる内に、「採れたのだぁ!」と、シェリーが勢いよく叫んだ。


「ほんと?」

「ホントなのだ! ほら見るのだ!」


 彼女の手には、拳くらいの大きさの透き通った鉱石が乗っている。


「綺麗……こんな大きいの、見たことない」

「この大きさなら、割とすぐ見つかるのだ。凄いのはこの透明度なのだ! これはもう、絶対にジェムクオリティに合致がっちするのだ! ここの地下水も真っ青になってしまうくらいの透明度……ソーヤブルで間違いないのだ!!」


 一人で盛り上がるシェリーに、とりあえず「おめでとう」と告げておく。

 ちなみに、言っている意味はさっぱりわからない。




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