第八章23 新たな出会い。 宝石の少女
(や、やっぱり――)
こちらに背を向ける格好で作業している二人を見て、私は心の中でため息をついた。
小さなピッケルやハンマーを使い、しきりに壁を掘っている女の子。
その隣には、抹茶色の髪の毛を持つ、美青年が立っている。
年の頃は十八くらい。
少女の掘削する壁を照らすためか、手に携えたろうそくランプが、顔の輪郭からはみ出るくらい大きな丸眼鏡を、鈍色に光らせていた。
後ろ姿を見ただけでわかる。
あの細いシルエットは、ヘレドだ。
「主様、もうお辞めになってはいかがでしょう。これ以上この場所を掘り進めるのは――」
「あ~、気が散るから、ちょっと黙ってて欲しいのだ! 助手のくせに、あれこれと口うるさいのだ!!」
「いえ、助手だから心配しているのですが――」
――さっきから二人の会話を聞いている限り、内輪もめの最中らしい。
たぶん、「この場所は危ないから早く離れた方が良い」と言っているヘレドに対し、少女の方は、あくまで離れない姿勢を示している。
なんとなく危惧していた予想が、的中してしまったらしい。
(つまり、あの娘が、ヘレドっていう人のご主人様――宝石加工職人てわけか)
であれば、私がとる選択はただ一つ。
見なかったふりをして、そっとここから立ち去るべし。
“触らぬ神に祟りなし”とも言うし、ここはスルーするのが吉だ。
私はそっと進行方向を変え、彼等に背を向ける。
しかし――そういう時に限って、神の方から手を触れてきたりするのだ。
いや、この場合は“悪魔”と言う方が正しいだろうか。
「おや、そこにいらっしゃるのは……先程テントでお見かけしたお嬢さんではありませんか」
(……げ)
私は、恐る恐る彼等の方を振り返る。
ついさっきまで壁の方向を見ていたはずなのに、いつの間にか、ヘレドがこちらを振り返っていた。
「あ……えっと……」
どう反応して良いかわからず、私がおどおどしていると、問題の少女が私の方を振り返った。
(――っ)
このとき、彼女の顔を初めて見た私は、思わず息を飲んだ。
彼女の容姿を言い表すなら、“可憐”の一言に尽きる。
それほどまでに、美しかった。
少女の髪は、真珠のように照り輝く白。
大きな瞳は、ガラス細工のように透き通った彩りを放つ。
身に纏う白いロングコートや、あちこちにあしらった宝石のアクセサリーが、彼女という宝石を一層誇張している。
しかし――そんな自分の美しさに興味がないのか、整えれば美しい髪はぼさぼさだった。
「キミ……こんなところで、一体何をしてるのだ?」
そんな彼女が、こてんと首を傾げて、問うてくる。
「え……それは、その……道に迷っちゃって。あは、あはは」
「……ふーん。名前はなんなのだ?」
「か、カースです」
「それは男の名前なのだ」
「それはまあ、いろいろとありまして――」
話すと長くなりそうなので、テキトーに流す。
「あ、貴方の名前は?」
聞き返すと、彼女は満面の笑みで笑って答えた。
「ボクはシェリー! シェリー=レジェリーって言うのだ! よろしくなのだ!!」
シェリー=レジェリーちゃんのイラストを描いていただきました!
イラストは、くれは様作
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