表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

238/304

第八章23 新たな出会い。 宝石の少女

(や、やっぱり――)


 こちらに背を向ける格好で作業している二人を見て、私は心の中でため息をついた。


 小さなピッケルやハンマーを使い、しきりに壁を掘っている女の子。

 その隣には、抹茶色の髪の毛を持つ、美青年が立っている。


 年の頃は十八くらい。

 少女の掘削くっさくする壁を照らすためか、手に携えたろうそくランプが、顔の輪郭りんかくからはみ出るくらい大きな丸眼鏡を、鈍色にびいろに光らせていた。


 後ろ姿を見ただけでわかる。

 あの細いシルエットは、ヘレドだ。


「主様、もうおめになってはいかがでしょう。これ以上この場所を掘り進めるのは――」

「あ~、気が散るから、ちょっと黙ってて欲しいのだ! 助手のくせに、あれこれと口うるさいのだ!!」

「いえ、助手だから心配しているのですが――」


 ――さっきから二人の会話を聞いている限り、内輪もめの最中らしい。

 

 たぶん、「この場所は危ないから早く離れた方が良い」と言っているヘレドに対し、少女の方は、あくまで離れない姿勢を示している。


 なんとなく危惧していた予想が、的中してしまったらしい。


(つまり、あのが、ヘレドっていう人のご主人様――宝石加工職人てわけか)


 であれば、私がとる選択はただ一つ。

 見なかったふりをして、そっとここから立ち去るべし。


 “さわらぬ神にたたりなし”とも言うし、ここはスルーするのがきちだ。

 私はそっと進行方向を変え、彼等かれらに背を向ける。


 しかし――そういう時に限って、神の方から手を触れてきたりするのだ。

 いや、この場合は“悪魔”と言う方が正しいだろうか。


「おや、そこにいらっしゃるのは……先程テントでお見かけしたお嬢さんではありませんか」

(……げ)


 私は、恐る恐る彼等の方を振り返る。


 ついさっきまで壁の方向を見ていたはずなのに、いつの間にか、ヘレドがこちらを振り返っていた。


「あ……えっと……」


 どう反応して良いかわからず、私がおどおどしていると、問題の少女が私の方を振り返った。


(――っ)


 このとき、彼女の顔を初めて見た私は、思わず息を飲んだ。

 

 彼女の容姿を言い表すなら、“可憐かれん”の一言に尽きる。

 それほどまでに、美しかった。


 少女の髪は、真珠しんじゅのように照り輝く白。

 大きな瞳は、ガラス細工のように透き通ったいろどりを放つ。


 身にまとう白いロングコートや、あちこちにあしらった宝石のアクセサリーが、彼女という宝石を一層誇張いっそうこちょうしている。


 しかし――そんな自分の美しさに興味がないのか、整えれば美しい髪はぼさぼさだった。


「キミ……こんなところで、一体何をしてるのだ?」


 そんな彼女が、こてんと首を傾げて、問うてくる。


「え……それは、その……道に迷っちゃって。あは、あはは」

「……ふーん。名前はなんなのだ?」

「か、カースです」

「それは男の名前なのだ」

「それはまあ、いろいろとありまして――」


 話すと長くなりそうなので、テキトーに流す。


「あ、貴方の名前は?」

 

 聞き返すと、彼女は満面の笑みで笑って答えた。


「ボクはシェリー! シェリー=レジェリーって言うのだ! よろしくなのだ!!」



挿絵(By みてみん)





シェリー=レジェリーちゃんのイラストを描いていただきました!

イラストは、くれは様作

※無断使用はお控えください




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ