表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

235/304

第八章20 あいた洞穴

「宝石を求めて来たという点では、こちらと同じというわけか」


 レイシアは、ふとそう呟いて、座ったまま僅かに身を乗り出す。

 それから、ナルギスの方を見据えて告げた。


「余も、魔術触媒として使うために、宝石を貰いに来たのだが、構わないだろう?」

「ええ、もちろんです」


 ナルギスは二つ返事で頷いた。


 元いた世界で考えれば、割と考えられない状況だ。

 何しろ、取り引きしているのは宝石なのだ。しかも、タダでくれると言っている。


 VIPのお客様が、行きつけのアクセサリーショップの宝石を、ショーケースごとさらっていくようなもの。

 

 腰を抜かさないのは、この世界に来てから、宝石は魔術を行使する上での消耗品という認識が定着したからに他ならない。


「宝石は、どこで受け取ればいい?」

「この仮設テント群にも、いくつかありますが……基本的には、採掘場へ行くのがベストかと思います。崩落等の危険がない場所に、採った宝石を一時的に保管している倉庫があります。そこで直接お選びになると良いかと」

「うむ、わかった。ではそこへおもむこう」


 レイシアは首肯し、私達の方を振り返った。


「カース達はどうする?」

「行く行く! 行くに決まってる!」


 フィリアは、勢いよくバシバシとテーブルを叩きながら応じる。

 見るからに、テンションがぶち上がっていた。


「セルフィスも行こ!」

「そうですね……宝石をとってくるだけなら、特にストレスがかかることもないかも。じゃあ、私も行きます」


 セルフィスも同調して、今度は私が答える番になった。


 当然だが、私は今、猛烈もうれつに反対の立場を表明したかった。

 理由は単純。


 十中八九、メンドクサイ人間だと思われる宝石加工職人に、会いたくないからだ。


 しかし、もう既に三人が行く意思を表明している以上、どうしても反対の立場を

とりづらい。

 それに、私一人だけ見ず知らずの男達と一緒に、テントの中で過ごすなど、気まずすぎる。

 

 ――結局、背に腹は代えられなかった。


「私も付いていきます。鉱山の中がどうなっているのか、興味がありますし」


 作り笑顔を浮かべて、そう言った。


 △▼△▼△▼


 かくして、鉱山の中へと足を踏み入れたのだ。


 採掘場は、テントからそう離れた場所にはなく、ほんの数分歩けば入り口となる横穴にたどり着いた。


「採掘場って、天井も横幅も狭い印象があったけど、そうでもないんだ」


 入り口の大きな穴を見上げて、そう呟く。


「いえ。ここは入り口だから、広くなっているだけです。深く潜っていくに連れ、だんだんと道幅が狭くなって、中にはかがまないと通れないほど天井が低い場所もあるんですよ」


 私の呟きを聞いていたナルギスが、そう説明してくれた。

 そんな彼は、手にろうそくランプを装備している。


 暗い洞穴ほらあなの中では、明かりは命綱と言っていい。

 万が一彼からはぐれようものなら、一大事だ。

 

(これは、気が抜けないな……)


 目的地の倉庫は安全な箇所にあると言っていたから、そう遠くにはないだろうが、十分注意して進まなければならない。


「行きますよ。絶対にはぐれないでくださいね」


 ナルギスは、そう念押しして、ゆっくりと穴の中へ入っていく。

 私達もまた、彼に続いて、山肌にぽっかりと口を開けた穴の中へ足を踏み入れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ