第八章13 余興。そして朝を迎える
――数分ほどすると、なんとかいつも通りの雰囲気に戻ってくれた。
三人で一つのろうそくランプを囲って話していたところを、私のために一人分の座るスペースを確保してくれた。
かくして、四人で一つのランプを囲い、話をすることとなった。
状況としては、夕食の時の光景がまるっきりここに再現されているわけだ。
まあ、焚き火がろうそくランプに変わっただけ……と思いたかったのだが。
(ぜんっぜん目を合わせてくれないんだけど……)
私は心の中で大きくため息をついた。
セルフィスがさっきから、こちらをしきりに盗み見てくるのだが、気になって彼女の方を向くと、たちまち頬を染めてそっぽを向いてしまう。
気まずい。
めちゃくちゃ気まずい。
――まあ、さっきも一番動揺してたのは彼女だったし、少しイジメすぎたかもしれない。
明日にでも謝らなくては。
「しかし、すっかり目が覚めてしまったな」
レイシアは苦笑しながら言った。
それから懐中時計を取り出し、時刻を確認する。
「今は午前三時か。本来ならぐっすり眠っている時間帯だが……皆目が冴えてしまっているように見える。どうせなら、四人で何かできる遊びでもしよう。何かアイデアあるものはいないか?」
「はいはい! じゃあ、怖い話でもしない?」
フィリアは、勢いよく手を挙げて進言した。
「ほぅ? 草木も眠る丑三つ時に、ホラーとは、なかなかに趣味が悪いな」
「ダメ?」
「駄目ではないが……余は、その……怪談話は、苦手だ」
レイシアは、打ち明け辛そうに声を落として、しどろもどろに呟いた。
「私も、怖い話はだめです」
そんなレイシアの言葉に、セルフィスも賛同する。
セルフィスが怪談話を苦手というのはわかるが、レイシアが苦手というのは意外だった。
王宮魔術師団の強者達を束ねた長だし、勝手に度胸があると思い込んでいた。
人は見かけによらないとは、よく言ったものだ。
それに、人は弱点があるほうが魅力的に映る。
「それじゃあ、何するのさ」
フィリアはふて腐れて、唇を尖らせながら言った。
「何をするかと言われてもな……カードゲームとかか?」
「それいいですね!」
セルフィスはぱっと表情を輝かせる。
だが、すぐに困ったように眉をひそめた。
「でも、都合良くカードゲームを持ってきている方が、いるでしょうか……?」
「そう言われれば、確かにいないかもな。仕方がない。別の遊びを――」
「カードゲームなら、フィリア持ってるよ!」
レイシアの言葉を遮って、フィリアがそう進言した。
「なんだと? 本当か?」
「本当だい!」
フィリアは自身のリュックサックからトランプカードの束を取り出し、どこぞの青い猫型ロボットのように宣言した。
「じゃじゃーん! とらんぷかーどぉ!」
それらをテントの床に軽く放る。
赤と白の絵柄が、綺麗に散らばった。
「本当に……妙なところで役に立つな、貴様は」
「えっへん。あがめ奉りたまえ!」
「それは遠慮しておこう」
レイシアはにべもなく言い捨てた。
――それから私達は、時間の流れも忘れてゲームに熱中した。
気付けば、テントの外が薄らと明るくなっていた。
外が完全に明るくなったタイミングで、私達はまた旅を始めるのだ。
変更した目的地――セキホウ鉱山へ向けて。




