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第八章7 フィリアの味覚

 行方不明(になっていたと勘違いしていただけで、ちゃんと戻ってきた)フィリアも揃ったことで、私達は夕食をとることにした。


 ちなみに、一人称が変わっている通り、あれからすぐに女性の身体に戻した。

 今はまだ、むやみに男の身体を見せてセルフィスに泡を吹かれてはたまらない。


「いっただっきまーす!」


 焚き火を四人でぐるりと囲む形で座った私達は、右斜め前に座るフィリアの音頭おんどに遭わせて食事を始めた。


 食べ物は、持ってきた缶詰と、ポットに入ったコーヒー。

 それから、フィリアが野生の熊のごとく手づかみでかっ攫ってきた魚だ。


 どうやら彼女が獲ってきた魚は一匹ではなかったようで、バケツいっぱいの魚を私達のところに運んできた。


 無人島に一人置き去りにしたら、一番しぶとく生き残るのは、この四人の中で彼女なのかも知れない。


「う~ん、やっぱ獲れたての魚は美味しいねぇ~」


 当の本人は何やらじじむさいことを言いながら、串に刺して焼いた魚を頬張っている。


「でも、ちょっと味が物足りないかなぁ……」


 フィリアは脇に置いてあった鞄をごそごそとあさり、中から小さな瓶をとりだした。

 中には、胡椒こしょうに似た黒い木の実が入っている。

 

 そして――その中身には、私も見覚えがあった。


「それ、たしかククの実だよね?」

「そうだよ!」

「いつから常備してたの?」

「王国を出る前に露店ろてんで買っておいた!」


 フィリアは瓶の蓋を開け、にこにこと笑いながら言う。

 焚き火を囲んでいるから、全員の表情がよくわかる。


「おにいも使う?」

「い、いや……遠慮しておくよ」


 私は、脂汗を垂らしながら答えた。

 ククの実は、胡椒に似ていると言った通り、味もとてつもなく辛い木の実だ。


 この世界のスパイス的な立ち位置のようだが、なにぶん一粒で絶叫仕掛けるほどの辛さなのだ。


 以前いた世界で、別段辛いものが苦手だったわけじゃないけど……このククの実だけはお手上げだ。

 そして、そんなメチャクチャ辛いククの実を――


「相変わらず、たっぷりかけるんだね」


 私は、若干じゃっかん引き気味で問いかける。

 フィリアは、瓶の口を下にして上下に激しく振り、大量のククの実を魚にかけていた。


「当然? ちょっとかけるだけじゃ全然もの足りないよ」


 フィリアは、さも当然とでも言うように答える。

 

 フルーツタルトが好物の彼女は甘党あまとうで、ついつい辛いものが苦手だと錯覚してしまう。

 しかし彼女は、甘党ではあるが辛党からとうでもあるのだ。


 まったく、味覚のバケモノである。

 それは、他の人達も思ったようで。


「あの、カースさん」


 左前方に座っているセルフィスが、身を寄せてそっと耳打ちしてきた。


「フィリアって、あんなに辛いの強かったんですか?」

「え、ええ。私も、初めて見たときは驚きましたけど。ていうか、今も驚いてますけど……」

「そう、でしょうね……」


 セルフィスは、苦笑いをして見せる。


 と、そのとき。


「なあ、カース。さっきの話の続きだが……」


 唐突に、向かいに座ったレイシアが神妙な面持ちで話しかけてきた。


「ああ、全員揃ってから話すって言ってた、例のことですね? 一体、なんなんです?」

「それはだな……」


 真面目な表情を崩さず、レイシアは一呼吸置いて話し始めた。

 




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