第八章5 炎の揺らめき
枯れ葉の上に枝を並べて、マッチで火を付ける。
火種にするのは、枝ではなく葉っぱの方だ。
枯れ葉は枝よりも、早く燃え尽き易いが、燃え始めやすい。
だから、枝ではなく葉っぱに火を付けるのだ。
焚き火をするときの常識ではあるけど、前の世界でキャンプとかしたことがなかったから、実践は初めてだった。
「よし! 火が付いた」
枯れ葉も枝も、よく乾いていたらしい。
幸いにも、一発で焚き火を作ることができた。
赤々と燃える炎は、夜に沈んだ野原の中で揺れる。
「流石です!」
セルフィスが興奮したように言う。
焚き火の炎は、そんな彼女の表情もはっきりと照らした。
好奇心に彩られた翠玉色の瞳の中で、オレンジ色が揺らめいている。
焚き火が付いただけでそこまで喜ぶのも、少々オーバーリアクションな気もするけど。
彼女にそれを言うのは野暮だと思った。
この旅はきっと、彼女にとって何もかもが新しい発見の巣窟であるはずなのだ。
「綺麗ですね、この炎。なんだか、夜の世界を映す鏡みたい」
「なんだか、ロマンチックなこと言いますね」
うっとりと炎を見つめる彼女の呟きに、問い返す。
「だって、そう思いませんか? 今まで真っ暗で何も見えなかったのに、明かりが付いたことで、ぼんやりと景色が浮かび上がるような気がして」
「そう言われれば、そうかも」と返事をして、私もパチパチと燃える炎に視線を落とした。
「……お腹空きましたね」
枝が弾ける音に、セルフィスの呟きが混じる。
まるで、嵐で遭難に遭い、無人島に流れ着いた人が呟いたような状況に見えなくもないが、ちゃんと食料はある。
「そろそろ、夕飯にしましょう」
「だが、まだ貴様の妹が戻ってきていないではないか?」
いつの間にか側まで来ていたレイシアが、口を挟む。
「そういえば、そうですね」
私は、真っ暗な野原を見回す。
焚き火で明かりを作ったとは言え、見える距離には限度がある。
真っ暗な夜の海のように揺れる草むらの中に――フィリアらしき影は見えない。
(嫌な予感、的中したかな……)
遠くに行くなと言っておいたのに。
まあ、あのイノシシ娘に言ったところで、無駄なことだとはわかっていたが。
「とにかく、探しましょう! フィリアがいてくれないと、私も寂しいです」
「そうですね」
セルフィスの言葉に私とレイシアは頷く。
と、そのときだった。
「呼ばれて、飛び出て、フィリアじゃーん☆」
底抜けに明るい声が辺りに響いて、同時にもの凄い勢いで足音が近づいてくる。
「ま、まさか……!?」
嫌な予感がして、僕は咄嗟に叫んだ。
「―《男》ッ―」




