第八章2 旅の道筋
しばらくリス達と戯れた後、私達はまた〈リラスト帝国〉へ向けて出発した。
相変わらず、左手には野原、右手には、ネイガ山脈の麓の鬱蒼と茂る森という、代わり映えのしない光景だが、思いの外飽きなかった。
時折吹く風が、薄緑色の草原を揺らし、まるで大海原のように波打つ。
耳を澄ませば、梢が揺れる音、葉が擦れる音、小鳥のさえずり――様々な音が風に乗ってやって来るのだ。
それを聞いていると、自然と心が安らかになっていく感じがした。
と、そんな時。
「ねぇ、おにい」
斜め後ろからついて来ているフィリアが、肩を叩いてきた。
「ん? 何?」
「目的地の〈リラスト帝国〉って場所まで、どんなルートを通るの?」
「ああ、それはね――」
私は、懐から四つ折りにした地図を取り出して、広げた。
出掛ける前に、ルートは何度も確認して、既に頭に叩き込んであるけれど、一応再確認のためだ。
歩きながら、フィリアにも見えるように図面を傾けて、二人で仲良く見ることにした。
「現在地はここ。ネイガ山脈を右手にして進んでるこの辺りだよ」
ネイガ山脈をぐるりと迂回しているカーブ地点を、指さす。
「そして、この道を道なりに進むと、ネイガ山脈を過ぎた辺りで、セキホウ鉱山に向かう道と、〈リラスト帝国〉に向かう道に分かれるんだ。私の予想では、この分かれ道に到着する頃には、日が沈んでいるはず」
「じゃあ、今日は分かれ道の辺りで野宿するんだね!」
「うん。そうしようかと思ってる」
「わあ! 楽しみ!」
表情を輝かせるフィリアを尻目に、物思いに沈む。
――私には一つ懸念があった。
フィリアは杜撰だから、環境がガラリと変わる野外であっても、ぐーすか寝てしまうだろう。
レイシアだって、仕事柄外で就寝したことはあるだろうし、たぶん問題ない。
問題があるとすれば――セルフィスだ。
なにぶん彼女は生粋の箱入り娘であるから、環境が変わっても寝られるかが、心配なのだ。
(大丈夫かな……)
私は、懸念を気付かれないよう何気ない所作で、セルフィスに目を配る。
彼女の様子はというと――
「野宿ですか。ひんやりとした風を感じながら寝るのは、とても楽しみです」
両手を胸の前で握りしめ、夢見心地で独り言をぼやいている。
まるで、遠く離れた思い人のことを考えているような仕草。
それがなんだか可笑しくて、危うく吹き出してしまうところだった。
まあ、とにかく。
心配は杞憂に終わりそうで良かった。
どうやら、野宿は問題なくできそうだ。
「ねぇねぇ、おにい。その分かれ道を過ぎた後はどうなるの?」
「ん? それはね――」
再びフィリアにせがまれ、私は地図に目を落とす。
その後。
私はフィリアに旅のルートを教え、同時に今後の計画を再確認するのだった。
↓ 舞台の簡略マップです




