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第七章39 新たな地へ歩む

「それじゃあ、みんな揃ったことだし、そろそろ出発しましょう」


 私は、集まった全員の顔を順番に見回して言った。


「はーい!」

「わかりました」


 フィリアは元気よく手を挙げ、セルフィスはにこやかに微笑んで首肯する。

 二人から少し離れた位置に立っているレイシアは、無言のまま頷いた。


 三人とも、返事に差異こそあるが、表情はどこか晴れ晴れとしていた。

 

 これからの旅が、嬉しくてたまらない。

 そう思っていることが、表情を見るだけで伝わってくる。


 一人は、天真爛漫てんしんらんまん好奇心旺盛こうきしんおうせい、新たな経験ができる旅へ期待に胸を膨らませる少女。


一人は、王女としての立場から(誘拐されたことを除き)、国を出たことのない箱入り娘。


そしてもう一人は、ずっと王国に仕えてきた魔術師団の総隊長。


立場こそまるで違う三人だが、王国から遠く離れた地へ赴いたことがないという共通点を持っている。

 彼女たちがこれからどんな経験をして、どんな思いを胸にするのか。


 私としては非常に楽しみだ。

 旅の目的はもちろん、自分の身体と転生の秘密を探ることだが、余興として三人の成長を見守るのもいいだろう。


 そんなことを考えていると、テレサが私に告げた。


「カース様とはここでお別れですが……決して、貴方様のことは忘れませんわ。いつかまた、必ず、お会いしましょう」


 そう言って、右手の小指を立てる彼女は、浮かない気持ちと笑いを重ねたような、複雑な表情をしていた。

 短い間しか一緒にいられなかったというのに、それだけ別れを惜しんでくれているのだ。


 そのことを嬉しく思いつつ、私は彼女の差し出した小指に、自身の小指をからめた。

 上質な絹のような肌触りが、私の小指に優しく纏わり付く。


「はい。約束です。またいつか、絶対に会いましょう」


 深紅の瞳を真っ直ぐに見つめて、私は力強く言い放った。

 それからゆっくりと絡めていた指を解いて、今度はロディに向き直った。


「ロディ。短い時間だったけど、ありがとう」

「おう。俺もカースと一緒に戦えて、最っ高に楽しかったぜ! また気が向いたら遊びに来いよ。いつでも大歓迎だ!」

「ありがとう。私が言うのも変だけど、王国のことよろしく頼むね」

「おうよ! どんと任せな!」


 ロディは、自身の厚い胸板を拳で叩く。

 それから、白い歯を見せて豪快に笑い、「行ってきな」と言った。


「うん。行ってくるよ」


 私はロディとテレサを交互に見つめた。


 ――間もなく二人に別れを告げ、私達は新たな地へと旅立った。


 みるみる遠ざかっていく王宮を時々振り返っては惜しみながら、〈トリッヒ王国〉の国境へと向かう。


 王国の北東にある検問所を通過する頃には、すっかり日は高く昇っていた。


(いよいよ、王国を出るんだ)


 一度〈ロストナイン帝国〉に乗り込んだことがあるので、厳密には初めてではないが、そのときとはまた違う特別感があった。


 程なくして、私達は無事に国境をすぎ、森の側を通る大きな一本道に差し掛かった。


 ――今この瞬間から、楽しい旅が始まるのだ。


 私は、新たな出会いと経験の予感に胸を膨らませて、清々しい森の空気を胸一杯に吸い込んだ。


第七章、これにて完結です!!

第八章の連載もお楽しみに! 新たな旅も、ワクワクドキドキな展開でいっぱいです!!


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