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第七章34 衝撃! 母親の手紙が示すこと

 ――その日の夜。


「ふぃ~疲れたぁ」


 自室に戻ってきた私――いや、僕は気の抜けた声を上げた。

 皆がいる部屋を出た後、性別を変えたのだ。


 男状態の方が安心するとか、元々男になりたかったから、とかそういう問題じゃない。

 なんというか、定期的に性別を変えておかないと、勘が鈍りそうで怖いのである。

 剣術や魔術といった戦闘面の他に、口調や所作など。


 はっきり言って、この身体は便利でもあり不便でもあった。


 堅苦しいクラバットを緩めて、フロックコートを脱ぐ。

 いつここを出るかはまだちゃんと決めてないが――僕の中では、明後日までには王国を離れたいと考えていた。


(まあ、できることならもう少し王国に居たいんだけどね)


 白いシャツに青いベストという、いつもの格好に着替えながら、僕は苦笑いをこぼした。


 ロディやテレサと別れるのは、心苦しい。

 叶うなら、彼等も一緒に来て欲しいとすら思っている。

 それほど、僕の心の中で二人の存在は大きくなっていた。


 そして、だからこそ、早めにこの国を出る気でいるのだ。

 名残惜なごりおしいからといって長居をしすぎると、離れようにも離れられなくなる気がするから。


「セルフィスさんにも、出発の予定が決まったら日時を伝えとかなくちゃ」


 独り言をぼやきながら、ベージュのズボンを履く。

 すると、ズボンのポケットから折りたたんだ紙切れのようなものが転げ落ちた。


「なんだろう、これ……」


 気になって拾い上げてみる。

 どうやら、しわくちゃになってしまった手紙のようだ。


(そういえば――)


 僕は、はるか昔とも思えるほどに遠い記憶を掘り起こす。

 

 〈トリッヒ王国〉の首都である〈リースヴァレン〉へ旅立つ朝、母親から手紙を手渡されたんだった。

 たしか。


 ――「()()()()()()()()()です。ただ、決してフィリアが見ていない場所で……一人で見てください」――


 なんてことも言ってたっけ。


 貰った後、ポケットの中に突っ込んだまま、すっかり存在そのものを忘れていた。

 入れっぱなしのままズボンを洗濯しちゃったけど、中の字面は無事だろうか?


「そもそも、そんなに大事な手紙なのかな、これ――」


 インクが水でにじんでいないことを願いつつ、ゆっくりと手紙を開いた。

 よかった。

 多少インクが滲んでいるが、解読できないほどじゃない。


「え~っと、一体何が書かれてるんだ? ……なぁッ!?」


 手紙を読んでいた僕は、全て読み終わる前に、その内容に脳天をハンマーで殴られたような衝撃を覚え、手紙を取り落とした。

 

 カサリ。

 足下に着地した手紙が、乾いた音を立てる。


「そ、そんな……」


 全身の血の気が引いていくのがわかる。

 

(い、いや待て……落ち着け。落ち着くんだ。ひょっとしたら見間違いの可能性もある)


 僕は無理矢理深呼吸をして、手紙を拾い、勇気を出してもう一度字面に目を落とした。

 

「……っ」


 僕はガクリと膝を折る。

 やはり、見間違いなんかじゃなかった。

 目の前の現実を受け入れたくないが、事実をつづる手紙には確かにこう書かれていた。


「貴方。フィリアに近づいて、一体どういうつもりです? 何をたくらんでいるのですか? 貴方がなぜ、カースと同じ顔をしているのかわかりませんが、一つだけわかることがあります。貴方は、フィリアの兄ではない。だって、娘の兄であるカース=ロークスは、()()()()()()()()()のですから」


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