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第七章32 新たな誇り

 ――私は、あの日のことを思い出す。

 あの日というのは他でもない。

 テレサ率いる〈ロストナイン帝国〉の魔術組織〈ウリーサ〉からの攻撃を受け、意気消沈していた夜のことだ。


 あの夜、私(男状態)の元へ現れたレイシアは、私に心の内を明かした。


 魔術の才に溢れた自分は、孤高で常に気高い魔術師の頂点でなければならないこと。

 そして、魔術師を率いる長としての誇りを持っていたこと。

 しかし、テレサに完膚かんぷなきまでに叩きのめされ、心の支えであった誇りを奪われたこと。


 ――「余は、これから……何を誇りに生きていけばいい……?」――


 あのとき、消え入りそうな声でそう呟いた彼女の姿は、今も脳裏に焼き付いている。

 

 だから私は、彼女にあることを伝えたのだ。


 レイシアは、一人でいることに慣れすぎている。

 だから今度は、他の誰かを頼ってみてはどうか、と。


 そうすれば、一人では越えられなかった壁を越え、テレサに打ち勝ち、もう一度誇りを取り戻せるんじゃないか。

 そう思って私は、一匹狼を卒業する提案をしたのだ。


 △▼△▼△▼


「――余は、カースの言葉を信じ、誰かを頼るという選択を引き受けた。他でもない、余を信じてくれた者の意見だったからな」


 レイシアは、目の前にいるロディへ話ながら、こちらを振り返る。

 頬にはほんのりと朱がさしていて、少し照れくさそうに映った。


「誰かを頼ることで、余はいろいろなことを学んだ。誰かに背中を預ける心地よさと安心感。失いたくないという思いと緊張感。どれも、上司と部下の関係では見つけられなかった気持ちだ。そして、信頼しあうことで強くなり、一度は負けた勝負に打ち勝つことができた」


 だがな、とレイシアは言葉を切る。

 それから、悟りを開いたかのように穏やかな表情で言葉を発した。


「当初目標であった誇りは、もう取り返すのをやめた」

「え?」


 私は、驚いて声を上げてしまった。

 彼女が支えにしてきた誇りは、彼女にとって必要不可欠なものだ。

 何より、失った時の今にも崩れそうな彼女を見たから、よくわかる。


 そのとき、私はあることに気付いた。

 先程レイシアが発した言葉に――彼女の決意のヒントが隠されていたことに。


「もしかして、さっき言ってた、「寂しい誇りを持つ以外の生き方」って……」

「ああ、その通りだ」


 レイシアは頷いた。


「お前が教えてくれた、誰かの側に寄り添って、共に背中を預け合う生き方だ。たった一人で重荷を背負い、誇りと指名に囚われて、窮屈な生き方をしていると、いつか限界が来る。そう身をもって学んだ。だから、もう誇りなんて要らない」


 レイシアは、清々しい表情できっぱりと言い切った。

 そこに、あの夜のような弱々しい女性の面影はない。

 かつて寂しい誇りを胸に抱いていた、険しい表情の彼女とも違う。


 誰かと共に生きるという新たな生き様を手に入れ、肩の荷がおりたかのような優しげな表情だ。

 どこか人を寄せ付けない冷たさのある顔つきなのは相変わらずだが、前のように他人を引き離すようなものでもない。

 

 レイシアという女性は、誰かに背中を預けて戦うという新たな誇りを手に入れたのだと思った。


「まあ、そういうわけで――ロディ。貴様に部下達を預けたい」

「ああ、そういうことなら構わねぇんだが……お前これからどうすんだ?」


 ロディは渋々といった様子で受け入れて、そう質問した。


「うん? 決まっているだろう。背中を預けられる大切な仲間と行動を共にするのだ」

「つーことは、つまり……」


 ロディは、ゆっくりと首を回転させて――あれ、なんで私の方を見るの?

 小首を傾げる私を指さすロディ。

 そんな、彼の意味不明な行動の意味を悟ったらしく、レイシアは満足げに頷いた。


「ああそうだ。余も、カースとの旅に参加する」

「え……えぇえええええええええええええッ!?」


 あまりにも予想の斜め上過ぎる展開で。

 私は素っ頓狂な叫び声を上げてしまった。



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