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第七章31 誇りの行方

「やったぁ! これでおにいと一緒に旅が出来るよわーい!」


 フィリアは、王室の高価なソファをトランポリン代わりにして飛び跳ね、全身で喜びを表現する。

 勢いよくソファを踏みつけたためか、ビリッと生地が破れて綿が見えた。


 修理代……私の給料から引かれないだろうか?

 心配でならない。(ちなみにフィリアは、そんなこと一切気付いていないようで、未だに飛び跳ねている)


 内心、辟易へきえきする私を尻目に、ロディが話を続けた。

 

「騎士団と魔術師団が存在しない今、脱退手続きを定めた各組織の条項じょうこうはほぼほぼ機能していない。統合された後すぐに帝国の討ち入り作戦を実行し、無事帰還した今も、新たな枠組みの準備で大忙しだ。統合された二組織の条項が定まるのは、当分先だろうぜ」

「たしかに、その通りだな」


 ロディの発言に、レイシアも首肯しゅこうする。


「壊滅的な被害を受け、人員が減って陣形がガタガタになり、当初は統率が全くとれなくてどうなることかと思ったが……討ち入り作戦だけはなんとか成功したようでよかった」

「ちなみに、今も統率はとれない状態だぜ?」

「そうなのですか。それは……大変ですわね」


 渋い顔で会話するロディとレイシアに、テレサが首を突っ込む。

 と、次の瞬間。


 カチン。

 そんな音が聞こえた気がして。


 ロディとレイシアは、額に青筋を浮かべて硬直する。

 そして。


「「誰のせいだと思ってるんだ!!」」


 修羅しゅらのごとき表情で、テレサに食って掛かった。


「ワタクシですか?」

「ああ、そうだ。こちらの部隊……とくに、王宮魔術師団は壊滅的な被害を被った。貴様がアホみたいに強すぎたせいでな!」

「あら……そんなに褒めても、何もでませんわ」

「やかましい。褒めてなどいないわ……」


 レイシアは特大のため息をついて、頭を抱えた。

 どうやら、呆れて怒る気も失せたようだ。


「まあ、いい。貴様が心から反省しているのは余も知っているし、十分過ぎるほど助けてもらったからな。これ以上とやかく言う必要も無いだろう」


 レイシアは、自分自身を納得させるかのようにそう言ったあと、ぼそりと呟いた。


「それはともかくとして……まったく。統率のとれない状態の部下達をロディ一人に預けるなどと考えると、頭が痛くなってくる」

「はぁ?」


 その呟きを目敏めざとく拾ったロディは、レイシアの方へずいっと顔を寄せた。


「待てよ。俺一人に預けるって、どういうことだよ。お前と俺で、今後の組織再建をはかるんじゃねぇのか?」

「なんだその不満そうな物言いは? 余がいた方がいいのか?」

「い、いや、断じてそんなことはないぞ!! 黙ってれば可愛いから、本当は今後も同僚として一緒に仕事したいだなんて、全然、まったく、さっぱり思ってないからな!?」

「……破廉恥はれんちな」


 心の声がダダ漏れなロディにほとほと呆れ果てた様子で、レイシアはぼやく。

 

「まあ、貴様が余を頼ってくれたのは素直に礼を言おう。ただ、本当にすまないが、貴様と共に組織の再建をはかることは遠慮したい。どのみち、貴様と過ごしていても、喧嘩ばかりでろくな組織にならんだろうからな」

「そりゃ、お前の言うとおりだが……それでいいのか? 魔術師団の総隊長に誇りを持っていたんだろう? そう簡単にその座を俺に譲っていいのかよ」

「ああ、構わない」


 レイシアは即答し、私の方をちらりと流し見た。

 それから深呼吸をして、落ち着いた声色でゆっくりと言った。


「孤高の総隊長である自分は、もういらない。寂しい誇りを持つ以外の生き方を、教えて貰ったからな」

「――ッ!」


 私は思わず目を見開いた。

 だってそれはたぶん、私が教えたことだからだ。


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