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第七章26 密かにハーレムの危機?

(謝らなきゃ……!)


 私は即座にセルフィスの方を向いて――


「ごめんなさい……」


 え?

 私は思わず、ぽかんと口を開けてしまった。

謝ったのは私の方ではなく……セルフィスだったから。


「どうして貴方が謝るんです?」

「だって……私のせいで、カースさんに迷惑をかけてしまいましたから」

「迷惑?」


 そう言われても、心当たりがないが。


「あのときですよ。戦いが終わった直後のことです。カースさんが急に男性の姿になって……私、気絶してしまったじゃないですか。結局、王国に帰るまでの長い道のりを、レイシアさんばかりか私まで背負わせてしまって。本当に申し開けなかったです」


 セルフィスは、悲痛な表情で頭を下げる。

 その姿は、なんだかとても小さく見えて……


「い、いいんですよ。そんなこと気にしなくて!」


 私は慌てて首を横に振った。

 あの事件は、私の中で迷惑という認識に入っていない。

 いや、むしろ。


「それを言うなら、私の方が迷惑をかけてしまっています。さっきの不躾ぶしつけな質問もそうですし、セルフィスさんが気絶した時も。貴方が男の人を苦手だということを知っていたのに、急に性別を変えてしまって……申し訳ないです」


 「急に性別を変える」とかいうパワーワードをさらりと交えて謝る。

 

「いえ、カースさんこそ謝る必要はないです」

「しかし……」

「私が、カースさんの特殊な体質を知らなかったのも、原因の一つです。でも……あのときは、親愛の念を抱いていた方が、急に恐怖の対象に変わったのが怖くて……つい頭が真っ白になってしまって」


 セルフィスは、きゅっと唇を固く結ぶ。

 不安と動揺からか、彼女の口元は小刻みに震えていた。


「今でも……私のことが怖いですか?」


 私は、そっとささく。

 なるべく、彼女を怖がらせないよう、優しい声で。


「……今のカースさんは、怖くありません。むしろ大好きです」


 セルフィスは、私の目を覗き込んで答えた。

 けれど、すぐに目を逸らしてしまう。


「ただ、性別をお換えになると、平静でいられる自信がないです。殿方を見る度、身動きのできない中、たくさんのけもののような目が私をながめ回す光景を思い出してしまって……」


 セルフィスは、消沈しょうちんしたように弱々しい声で呟く。


「そう、なんですか……」

「はい。カースさんも、ロディさんも、凄く優しい方だということはわかっているんです。決して卑劣ひれつなことをするような方じゃない。でも……いざ目の前にすると、身体が震えてしまう」


 なるほど。

 だからさっき、セルフィスの部屋でだべっていた際、ロディを見る彼女の表情が、氷漬けにされたように硬かったのだ。


 王女に対して、こんなことを思うのは失礼かもしれないが。

 このときは。彼女のことを可哀想だと心から思った。


 彼女が男性を苦手とする理由は、決して男性を軽蔑けいべつしているからではない。

 実体験からくる恐怖によるものだ。


 よわい十六にして敵国に囚われたという、精神的な圧迫感もあったことだろう。

 その上で、けがされてしまったなら、男の人に対してトラウマを覚えても不思議じゃない。


(何か、彼女の心の傷をやす手段はないかな? あるいは、トラウマを克服する方法が……)


 私は、少しの間思案にふけり――伝える内容を決めた。

 彼女にとっては少々酷な提案になってしまうが、私の伝えることを受け入れるかどうかは、彼女次第だ。


 私は意を決して口を開いた。



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