表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

199/304

第七章23 王女様はシックがお好き

「どうぞ、こちらになります」


 玉座の間を過ぎ、廊下を複雑な手順で通ることおよそ十分。

 召使いの女性が、一つの扉の前で止まり、手で促した。


「ありがとうございます」


 礼を告げ、静かに扉をノックする。

 しばらくして、「どうぞ」という聞き慣れた声が扉の中から聞こえた。


 私は、後ろに立つレイシア達に目配せをして、ゆっくり扉を開けた。


 中に入ると、そこは今までの絢爛けんらんさとはかけ離れた、落ち着いた雰囲気だった。


 壁はほんのりとクリームがかったホワイト。グレーやベージュで、魔法陣のような模様を描いたカーペットの上に、ダークブラウンのソファが一つと、木製のテーブルが一つ。


 奥の方には小さなタンスがあり、その上の花瓶にあざみの花が生けてある。

 王女様らしい、カーテンの付いた大きなベッドを除けば、庶民の家となんら変わらない。


 思わず驚いてしまったが、彼女らしいと言えば彼女らしい。

 美しい人を着飾るには、豪華なドレスよりシックなドレスの方が、より着る人の美しさをきわ立てることもある。


 こと王女のように、清楚な人の周りには、物静かな雰囲気がよく似合っていた。


 その本人はと言うと、私達を目にした瞬間、目を丸くしていた。


「カース様達でしたか。ようこそお越しくださいました」

「おう。久しぶりだな、王女殿下。会えて嬉し……ぐぉう!?」


 軽薄に挨拶したロディの脇腹を、すかさずレイシアがひじで殴る。

 

「え、ええ。ロディさんもお変わりないようで……」


 セルフィスはにっこりと微笑み返す。

 しかし、私はその笑顔の僅かな歪みを見逃さなかった。


 たぶん誰も気が付いていないだろうが。

 無理をして笑っているような、微かな不自然さがあった。


 ロディの態度が気にくわないわけじゃないと思う。

 たぶん……彼が男だからだ。

 私は、ずっと彼女に対して抱いていた疑問をぶつけるチャンスを待った。


 △▼△▼△▼

 

 レイシアやテレサと並び、助けて貰ったお礼を告げた後、セルフィスのもてなしをうけることになった。

 彼女の淹れてくれた紅茶や、一流お菓子職人が作った王室御用達のクッキーは格別だった。


 知らぬ間に会話が弾み、セルフィスも楽しそうに笑っていたから――彼女にぶつけようと思っていた質問を、忘れかけてしまったほどだ。


「そろそろ、おいとまさせてもらおう」


 話している内に、すっかり夕方になってしまったこともあり、レイシアがそう切り出した。


「そうですわね。楽しくて、すっかり長居してしまいましたわ」

「うん! フィリアも楽しかった! ありがとね、セルフィス!」


 テレサの言葉に、フィリアも首肯する。

 というか、今日が初対面のはずなのに、もう打ち解けて呼び捨てで呼んでるし……無駄に社交性の高い妹だ。


「ええ。私も楽しかったよ、またねフィリア。また会いましょう、皆さん」


 セルフィスは、淑女らしく微笑む。

 今がチャンスと思い、私は思いきってセルフィスに切り出した。


「あの、セルフィスさん」

「? なんでしょう」

「この後、少しお話ししたいことがあるんですが……その、二人きりで」


 きょとんと首を傾げるセルフィス。

 だがすぐに笑顔を取り戻して、頷いた。


「わかりました」

「ありがとうございます」


 私はレイシア達を振り向いて、「先に帰っててください」と告げた。


 いよいよ、大切なことを切り出す時間だ。

 レイシア達がぞろぞろと部屋を出て行くのを見送りながら、私は大きく深呼吸をした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ