第七章22 次なる目的地
それはともかく、理由がもう一つある。
何より多きな理由が。
「それに、王女様と契りを結ぶということは、この国で暮らすということですよね?」
「ああ、そうだが」
「私は、この国で暮らすつもりはないんです。私には、次に向かう場所がある」
私は、きっぱりとそう断言した。
この世界で、つきとめなければならない真実がある。
どうして、男状態と女状態が切り替わる身体で転生したのか。
そのワケを探るために、旅をしなければならないのだ。
「次に向かう場所? それは一体どこじゃ?」
マキュリー王は、眉根を寄せて聞いてくる。
行き先に関しては――既に決まっている。
「次に向かうのは、〈リラスト帝国〉です」
噛みしめるようにゆっくりと言って、それからテレサの方を流し見た。
彼女は、少し驚いたようにこちらを凝視している。
彼女がそんな顔をするのも、無理はない。
だって、この決意を固めたのは――テレサの発言に突き動かされたからだ。
――囚われたセルフィス王女を救助しに行った夜。
ひょんなことから同行(不本意)していたフィリアと離ればなれになり、一人で路地に入った私は、暗闇の中でテレサに会った。
その時はまだ、彼女は王国側の敵という認識であったが故に、彼女の言葉全てに耳を貸していたわけではないが。
一つ、私の胸に引っかかる発言があった。
――「この〈ロストナイン帝国〉をずっと東に向かった先に、〈リラスト帝国〉という大きな国があります。そこの宮廷占い師に聞けば、わかると思いますわ。貴方の身体の呪いと、ワタクシがそれを知るわけを……」――
テレサは何故か、私の身体の呪いについて、全てと言わずとも何かしら知っているような雰囲気だった。
そして、どうして知っているのか聞いたところ、この言葉が返ってきたのだ。
必定、テレサより占い師の方が私の身体について深く知っているということになる。
〈リラスト帝国〉に行けば、この身体の秘密と呪いがわかる。
そんな気がしてならない。
「そうか。行ってしまわれるのじゃな……」
王は、しょんぼりと肩を落とす。
まるで、お気に入りのゲームを没収された小学生みたいな反応だ。
「はい。申し訳ありません」
「いや。いいんじゃよ。無理に引き留めるわけにもいかんからな……」
はにかむが、やはり何処か寂しそうな表情だ。
ところが、不意に何かを思いついたらしく、急に明るい顔になって手を叩いた。
「そうじゃ、名案を思いついた」
「なんです?」
「お前さん、〈リラスト帝国〉への旅に、娘も同行させてはもらえぬか?」
「あー……それは確かに迷案ですね」
“めい”違いだけど。
そのツッコミは心の中に秘めておいた。
どうあっても、この王様は、どうしても私とセルフィスをくっつけたいらしい。
「どうじゃ? 連れて行ってくれるか?」
「いやぁ、本人に聞かないとわかりませんよ。決めるのは王女様ですし」
「ああ、そうじゃな。だから、気が済むまで話し合ってはくれぬか?」
「もちろんです。セルフィスさんに会うのが、今日お邪魔した目的ですから」
「そうか、わかった」
王は頷いて、踵を返す。
それから、ゆっくりと階段を上り、玉座の方へと戻っていった。
「娘は、この玉座の間を過ぎて更に奥の部屋にいる。少々複雑な道順となるから、使用人に案内させよう」
腰を落ち着けたマキュリー王は、静かにそう言った。
「ありがとうございます」
片膝と片手を地面につき、慇懃に頭を下げた。
これでようやく、王女に会える。




