第七章21 王女様と結婚!?
「ちょちょちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
私はテンパって噛んでしまう。
言われた言葉の意味は理解しても、状況に理解が追いついていない。
「む、娘婿になるってどういう意味ですか!?」
「うん? 言葉通りの意味だが? お前さんに、うちの娘の旦那になって欲しいって事だ」
「い、いや。それはわかってるんですが……!」
私は気が気じゃなかった。
唐突にそんな話を仕向けられても困る。
「どうした、嫌か?」
私が渋っているのを目敏く見つけた王は、不服そうに眉をひそめる。
「嫌ってワケじゃないです」
王の機嫌を損ねたくはないから、慌てて顔を横に振った。
実際、別に嫌というわけじゃない。
あんな美少女と結婚できるなら、本望だ。
国民の高嶺の花であるセルフィス王女が、私――いや、僕と結婚するなんて事になったら、男共は全員ハンカチを噛んで悔しがることだろう。
しかし、できない大きな理由が三つほどある。
一つは、王女が何故か、男性を怖がっている節があるからだ。
その理由がわからない限り、迂闊に彼女に近づくのは危険だ。
うっかり男状態で彼女に近づこうものなら、また気絶されかねない。
男が関わる話題は、慎重にしなければならないのだ。
そして二つ目は――
(怖いんだよなぁ……この人達の視線が)
私は、おそるおそる周りを見回す。
案の定と言うべきか。
「おにい……?」
「はい。なんでございましょう……?」
額に青筋を浮かべ、笑顔のままキレている妹の法を、おっかなびっくり見る。
「もし、フィリアを差し置いて、王女様なんかと結婚したりしたら、絶対許さないから。一生呪うから」
「あ……はい。了解しました」
小刻みに震える声で答える。
更に視線を横滑りさせると、テレサも赤い目の中に炎を滾らせてこちらを見ていた。
「カース様?」
「な、なんでしょう?」
「皆まで言わずとも、わかっているかと存じますが……もし結婚なんてしたら、ワタクシ、失意で生きる気力を失ってしまいますわ」
「いや大袈裟な!?」
参った。
そんなに私のことを思ってくれていたのは嬉しいけど、思いすぎて呪縛になってしまっている気がする。
ははーん。
さては、以前彼女が私の名前が呪縛であることに対して意味深な発言をしていたが、まさかこういうことだったのか?
そんなことを重いながら視線を移すと。
無言で腕を組み、目を閉じているレイシアが映った。
「あの……レイシアさんも、怒ってらっしゃいます?」
「当たり前だ」
レイシアはゆっくりと瞼をあげた。
「皆が貴様に惚れているのは、貴様のせいだからな。ちゃんと責任は取って貰うぞ」
「は、はい……すいません」
とりあえず謝っておいた。
ハーレムとか百合も、案外大変らしい。
ここは、ロディに助けを求めるしか――
私は、彼の方を向いたが。
(ダメだ。ちょっとご立腹でいらっしゃる)
流石に、目の前でイチャイチャを見せつけられたことには苛ついているらしく。
そっぽを向いて、聞こえないふりをしていた。
――私が悪いわけじゃないはずなんだけど、後でちゃんと謝っておこう。




