第七章18 振り回す王様
「それで、今日は一体何の用じゃ? 随分と仲間を引き連れてきて」
「実は大事な話がありまして――」
「あ、悪い。そのまえに一人ずつ自己紹介をしてくれんかのう? レイシアっちとロディっちは知ってるから、他の新キャラ達」
マキュリー王は、レイシアの言葉を遮った。
自分の質問に答えてくれているのに、それを聞かずに新たな質問をぶつけるとは。
随分とマイペースな王様だ。
「じゃあ、そこの金髪の女の子! 張り切って自己紹介を頼むぞ!」
「は~い!」
入学式で名前を呼ばれた小学一年生のように、フィリアは勢いよく手を挙げる。
この時点で、召使いの言っていた「粗相の無いように」という言葉は、機能しなくなっていた。
「えっと、フィリアの名前はフィリアです! 歳は十五で、好きな食べ物はフルーツタルト! 好きな色はピンク!」
「ほうほう! 実に女の子らしいのう! ちなみに身長とスリーサイズは?」
「えっとね、身長は152センチで、スリーサイズは――」
「ちょぉっと待ってぇええええええええッ!」
僕は思いっきり大声を出して叫んだ。
この場でスリーサイズなんて公表させて、公表させていいわけがない。
「なんじゃ。鬱陶しいのう」
マキュリー王は不服そうに目を細める。
「いやいやいや、鬱陶しいも何も、そりゃ遮りますって。身長はまだしも、スリーサイズを聞くのはセクハラですよ!?」
「そんなこと、気にせんでいい。これは、ただのスキンシップじゃ」
「え、えぇ……」
僕は、呆れてぽかんと口を開けてしまう。
そんな僕に、レイシアがそっと耳打ちした。
「気にするな。……というか、諦めろ。王は元来、こういう性格だ」
レイシアは、参ったようにため息をつく。
「それ、大丈夫なんですか? 一国の全てを担う王様が、しょっちゅうセクハラ発言してるなんてこと国民が知ったら、たちまち権威が失墜しそうな気がしますが……」
僕はちらりと、マキュリー王を流し見る。
もうフィリアとの話は終わったらしく、テレサとしきりに話していた。
――それも、唇と唇が触れあいそうなくらいの、至近距離で。
「王の権威については、心配しなくても構わん。国民のほぼ全員が、王の性格やセクハラ発言については熟知しているからな」
「……゛うぇ?」
耳を疑った。
軽薄な王の性格を、ほぼ全ての国民が知っているなんて……それでもこの国が回っているのが不思議だ。
それに、思い返せばこの国来てから二週間。
巡回などで街に繰り出したことは何度もあるが、王の陰口を言っている者など一人も見なかった気がする。
「一体どうして、支持されているのです?」
「簡単な話だ。王のセクハラ発言や軽い態度は疎ましく見えるようなものだが、それを帳消しにするだけの辣腕をお持ちなのだ。経済や外交など、執政に関する尽力ぶりは、はっきり言って目を見張るものがある。三十年前まで、〈ロストナイン帝国〉の足下にも及ばなかったこの国を、肩を並べるまでに成長させたのも、マキュリー三世の功績に他ならない。トリッヒ王国の英雄的人物と讃える者も多い」
「そうだったんですか……」
僕は、ただただ頷くことしかできなかった。
別に、王の功績を疑ってるわけじゃない。
もしレイシアが言うだけの力が王になかったら、たちまち王の座から引きずり下ろされているだろうから。
ただ。
テレサの手をぎゅっと握り、「実に美しいのう! 我が后にしたいくらいじゃ~」などと宣っているセクハラおじさんと、国の未来のために辣腕を振るうマキュリー王の姿が、どうしても重ならないのだった。
(それにこの場面だけ見ると、セルフィスさんのお父さんっていう設定も、ちょっと疑わしいよ)
僕は、人知れず苦笑した。
セルフィス王女のような真面目で清楚な子が、こんな性格の父親の血を引いているというのも、いささか信じられない。
そんなことを考えていると、テレサとの話を終えたマキュリー王が、こちらへと歩いてきた。




