第七章16 登場! マキュリー三世
「よし、みんな揃ったな」
廊下に出ると、ロディだけでなく、レイシアとテレサも来ていた。
全員、粗相の無いように着飾った姿をしている。
服装は、男性用と女性用でそれぞれ統一されているらしい。
ロディは、赤いフロックコート。レイシアとテレサはそれぞれ、ライトブルーとワインレッドのドレスに身を包んでいる。
なんというか――華やかすぎて、目がチカチカしそうだ。
「フィリア、ちゃんと謁見状は持ってるんだろうな?」
レイシアは、長い髪を掻き上げながら、僕の後ろに立つフィリアに問いかける。
「もっちのろん! バッチのグーだよ!」
フィリアはウィンクして、サムズアップする。
それから、謁見状を取り出して、レイシアのすぐ目の前で掲げた。
「よろしい。では行くか」
レイシアの言葉に、僕達はこくりと頷いて、メインブロックを目指した。
△▼△▼△▼
果たして、問題なく謁見状は機能した。
メインブロックの中央。
これ以上進めば、王様の生活スペースがあるという場所に、手続き所が存在する。
当然のように僕達はそこで止められたが、フィリアが得意げに、
「控え控え! この謁見状が目に入らぬかぁ!」
などと謁見状を掲げたお陰で、問題なく通ることができた。
もちろん、彼女が大声でそんなことを言ったために、その場にいる全員が一斉にこちらを振り向いて白い目で見つめてきた。
恥ずかしい思いをしたのは、言うまでもない。
まあ、とにかく。
これで、王に謁見することがようやく叶ったわけだ。
手続き所を抜けた後、僕達は召使いらしき中年の女性の先導で、メインブロックの更に奥へと進んだ。
周りの壁や燭台、床に敷かれたカーペットなども、西ブロックのものより遙かに豪華だった。
壁は透き通るように白い石で造られ、天井は抜けるように高い。
一定の間隔で設置された燭台は、銀とガラスを巧みに加工して、蝋燭の明かりがより煌びやかに映るよう加工されている。
燭台と燭台の間には、かつて王を務めた人物らしい肖像画や、その他美しい風景画が飾られている。
カーペットも、今までの赤一色のものとは異なり、金色の刺繍が施されていた。
その美しさに見とれている内に、いつのまにか廊下の奥に到達していた。
目の前には、実に建物の四、五階に相当する位置にまで到達する大きさの両開き扉がデンと構えている。
「これより奥が、玉座の間となります。以降は、粗相の無いように」
召使いの女性はそう釘を刺して、扉を軽くノックした。
すると。
ギギギギという音を立てて、扉がゆっくりと奥に向かって口を開けた。
「うわぁ……」
中に足を踏み入れた僕は、思わず感嘆の声を漏らす。
玉座の間は、想像を絶するほどに荘厳で絢爛だった。
今まで通ってきた廊下よりも更に高い、吹き抜けの天井。
周囲を長方形に囲った壁は、まるで真珠のように淡白い輝きを放っている。
カーペットが真っ直ぐ伸びていく先には、滑らかな大理石をふんだんに使った階段があり、その頂上に大きな椅子が一つ据えられている。
そして、その椅子に、白い豪奢なガウンを着込んだ、一人の男が座っていた。
年齢は、四、五十代と思われる、白い頭髪の初老の男だ。
目元から頬にかけて皺が無数に刻まれており、今までの苦労を彷彿とさせる。
しかし、深緑色の小さな瞳には、どこか悪戯っぽい色が見え隠れしており、どこか少年のような面影も見て取れる。
「うむ。ようこそ、勇者諸君。マキュリー=ル=トリッヒ三世の名において、君たちを歓迎しよう」
男――マキュリー王は、顔をくしゃっとさせて笑った。




