第七章15 性転換の必要性
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「じゃん、じゃじゃーん! どう?」
数十分後。
顔を洗い終え、リビングの隣の部屋で着替えていたフィリアが、扉を開けて出てきた。
「うわぁ……」
目の前でくるりと一回転する彼女を見て、僕は思わず目を丸くした。
まず目に映ったのは、艶やかなピンク色。
彼女の周りだけ春になったようなその色がドレスの形になって、全身をゆったりと包んでいる。
髪飾りのリボンも、蝶の形を模した水色のものに新調され、黄金色の髪に寄り添っていた。
「なに? ジロジロ見ちゃって。ひょっとして、惚れちゃった?」
思わず言葉を失って見入っていた僕に、フィリアが問いかけてくる。
「う、うん……」
僕は、素直に頷いた。
当たり前だ。
見惚れない方がどうかしてる。
元々、彼女が美人だということはわかっていたけど、いざこうして色気を出されて、再確認した。
まだまだあどけなさの残る少女ではあるが、大人の服を着こなせば、もう立派なレディである。(なお、精神年齢は低いままである)
「あ、ありがと」
フィリアは頬を赤らめ、目のやり場を探すように、そっぽを向いてしまった。
勝ち気なくせに、急な責めに弱いのは、出会ったときから変わらない。
そんな愛らしい様子に、頬をほころばせていると。
コンコンコン。
不意に、ノックの音が三回、部屋に鳴り響いた。
「誰です?」
「俺だ。ロディだ。そろそろ出発したいんだが、準備はできてるか?」
「もちろん。準備オーケーだよ」
そう返すと、ガチャリと無機質な音を立てて、扉が開いた。
「よぉ、似合ってねぇな」
「やめてよね。見た瞬間そう言われると、ふつーに傷付くんだけど」
「わりぃわりぃ。でも……ぷっ」
ロディは、吹き出しかけた笑いを堪えるように、両手で口元を覆った。
「お前、ぶっちゃけドレスの方が似合うんじゃねぇか?」
「もしドレスを着るなら、女状態になってから着るよ」
ぶっきらぼうに答える僕に、「確かに」と笑いながら返すロディ。
相変わらず、お気楽な奴だ。
どちらかというと男状態でいたいというのが本音だから、女体化してドレスを着るのは本意じゃない。
でも――
(この先、着ることになるかも知れないな)
僕は、ふとそんなことを考える。
魔術を行使するには、女状態の方が都合が良かったし、この先も多用することはほぼ間違いない。
加えて、セルフィスの、男性を怖がる妙な傾向も、頭から離れない。
ひょっとしたら、男状態ではまともに口をきいてくれないかも――そんな予感もあった。
故にこの先、女の子に変身しなければならないタイミングは、いくらでもあるはずだ。
(とりあえず今は、王様に会うことが先決かな)
今すべきことを、今一度見定めて。
僕はフィリアと共に、部屋を出た。




