第二章5 魔術戦。 王国の珠玉法
「笑止」
ナイフが肉薄する中、レイシアは瞬き一つせず、いつの間にか手に持っていたあるものを、親指で上に弾いていた。
陽光を受け、白い光を反射するそのあるものとは――
(ダイヤモンド?)
世界一硬いことで知られる、過密炭素の塊。誰もが知っている、高価な宝石だ。
レイシアは、打ち上げたダイヤを一瞥し、淡々と呪文を紡いだ。
「《珠玉法―金剛石・障壁》」
刹那、レイシアを守るように、半透明の六角形障壁が展開。
きん、と涼やかな音を立てて、ナイフがあっさりと止められた。
「な、にぃ……ッ!」
「やりおる」
「流石かも」
素早い対応に愕然とする三人組。
「ふん。今さら彼我の実力差に気付いても遅いわ」
レイシアは忌々しそうに吐き捨て、懐から更に宝石を三つほど取り出した。
陽光を受け、キラキラと煌めくその石の色は、淡い緑。
それを手のひらでコロコロと転がしながら、レイシアはまるでゴミでも見るように三人を睥睨する。
「余に向かって二度のナイフ投擲。明らかな敵対行為とみなし、排除する」
感情の読めない声色で死刑宣告をするから、側にいる僕は、思わず身震いがした。
「へっ。へへっ。気に入ったぜ、嬢ちゃんよう?」
「威圧感は流石というべきか」
「おしっこ、ちびりそうかも」
三人の額に、みるみる脂汗が浮かぶ。
だが、逃げられないことは悟っているらしく、各々がナイフを手に構えた。
当然だろう。先手を打ったのは三人組だ。殺そうとして敵わないから逃げる、というのは問屋が卸さない。
まあ、相手は魔術師団のトップだ。勝算があるとは思えないが。
「いいだろう。この余を相手に、精々無様に踊るが良い」
レイシアが、そう不敵に笑った瞬間。
「やぁああああッ!」
「ふっ!」
「たぁああああッ!」
三人は一斉に地面を蹴り、レイシアめがけて駆け出した。
モブAが駆ける。
その手に握られたナイフが怪しく光り、レイシアの首筋へと伸ばされる。
「ふん」
だが、その一撃をレイシアはひらりと躱す。
捕らえ損ねたナイフは虚空を切り、勢い余ったモブAの身体とレイシアがすれ違う。
「攻撃が直線的すぎるぞ、素人」
すれ違い様、レイシアはモブAの耳元へ囁き、足を引っかける。
「なぁっ!?」
体勢を崩されたモブAは情けない声を上げて転倒。
すかさずレイシアは倒れ込んだモブAに向けて宝石を投げ、呪文を唱えた。
「《珠玉法―翡翠・蔦葛》」
刹那、レイシアの投げた翡翠が、まるで種が割れるかのように弾け、中から四本の蔦が出現。
「な、なんだこれはぁ!?」
目を見開いて怯えるモブAの手足を絡め取り、即座に縛り上げる。
「貴様のような下郎でも、殺すとなると寝覚めが悪いからな。無力化させて貰った」
寝覚めが悪くとも関係なく殺しそうな声色で、レイシアは告げる。
「華麗な身のこなしだな。流石総隊長と言うべきか」
賞賛を口にしながらも素早くレイシアの後ろに回ったモブBは、ナイフを投擲。
レイシアの死角から、残像すら見える速度で鋭く飛翔する。
「遅いな」
だが、レイシアは左足を軸にして左回転。ナイフはレイシアの背中を掠めて明後日の方向に飛んでいき――
「お返しだ」
レイシアはいつの間にか左手に持っていた翡翠を、モブBめがけて弾き飛ばした。
「ぬ、ぬぉおおおおッ!」
たちまち四本の蔦が出現し、モブBの身体を縛り上げる。
「さて、と……」
地面に這いつくばって悶える二人には見向きもせず、レイシアはモブCの方に氷のような視線を向けた。
「次は貴様の番だぞ?」
「ちょっとマズイ、かも……」
モブCは一歩、二歩と後ずさる。
その手は震え、握られているチンケなナイフはカタカタと小刻みに揺れていた。
「ふん。今更それを知ったとて、最早手遅れだ」
レイシアもまた、モブCを追って、一歩、また一歩と前進する。




